ひろしま

ひろしま

ひろしま


花模様、水玉模様、格子縞…
リボンにフリル、レースをあしらって、丁寧に縫いあげられたワンピースにブラウス・・・
縫いあげる母の手許を少女はどんなにわくわくしながらながめていたのだろう。
初めて身に付けたときの弾けるような笑顔が見えるようです。


多くの遺品のなかでも、幼い少女たちの服が、ことに目に焼きつけられる。
焼けて、引き裂かれて、黒い沁みに汚されて、
変形してもなお、その服はかわいらしい、美しい。
手作りの服。丁寧につぎの当たった服。洗いざらした木綿の服。
激しい戦争のさなか、辛い時代に、
この服を縫いあげた人の思いも想像する。
誰かの服の仕立て直しかもしれない。
リボンやボタン、あり合わせの素材を吟味して、組み合わせ、
手作りされ、縫い直され、大切に補修されたことだろう。
これを着る少女の笑顔を思っただれかがせっせと手を動かしたのだろう。
生きていくだけで、(家族に)食べさせていくだけで、いっぱいいっぱいだっただろうに、
丁寧で凝った仕立てや細かな遊び心が、
これらの服を着ていた子どもが、誰かにとっての、かけがえのない大切な存在であったのだと、伝える。
暗がりのなかの、ささやかな日常がここに明かりのように灯る。


大切にしていた生活があった。願いがあった。
何もかもが一瞬で断ち切られてしまった。
戻ってこない。


写真集です。
言葉のない写真集。
一枚一枚の写真から、一人ひとりの姿に思いを馳せる。
どんなにしても帰ってはこない人たちの残した、声のない声を、せめて、大切に読んでいく。
あの日(そのあとも)犠牲になった人は、数字ではなくて、一人一人の人間なのだ。