森の奥へ

森の奥へ

森の奥へ


ばらばらな家族である。
それぞれがそれぞれに不満を抱えているのだけれど、
この家族の問題が本当はどこにあるのか、解りそうでわからない…まま、物語は始まる。


「森」という言葉には、いろいろなイメージがあるし、いろいろな意味合いもある。
だけど、これほどの… 
これほどの…何? わたしはなんと書こうと思った?
偉大な、恐るべき、畏れるべき、不気味な、荒々しい、容赦のない…どんな言葉を当てはめたらいいのか、どれも少しずつ違う。


「森」に対しては、人間の傲慢さは、卑屈さと表裏一体のように思える。
熊の形で、または夜の姿で、「森」は、人間の傲慢な鼻っ柱をへしおりに来たように思えた。
化けの皮を剥がしにかかった。
「森」が真剣に攻撃をしかけるとき、勝ち目はない。
徹底的に痛めつける。


一方で、
人の世界からはみ出してしまった者を何も言わず迎え入れる懐の深さも、
また「森」の一面なのだ、と思った。
負けた、完敗だ…とひれ伏すものをその手に掬い取る慈悲もあるように思う。


ニシキヘビを飼う夫婦の挿話も心に残る。
ブラックユーモアではあるけれど、太古の森と、野生を忘れた人間とを一部、象徴しているようなエピソードにも思える。
(深読みすればするほど、どんどん妄想の世界になってしまうのだけれど)


人の心の中にも、暗い「森」があるのではないか。
安易に覗くことも踏み込むこともできず、適当にごまかして暮らしてきた「森」
人が忘れていても、森は決して忘れない。飼いならされもしない。
人は、森から離れることはできないのではないか。
できることは、そこに「森」がある、と認めることだけなのかもしれない。


この家族を、ある意味壊れさせ、ある意味再生させたものは、何だったのだろう。
彼らそれぞれの「森」とは一体なんだったのだろうか。
彼らはいったいどこに分け入ったのだろうか。