ブリギッタ・森の泉 他一篇

ブリギッタ・森の泉 他1篇 (岩波文庫)

ブリギッタ・森の泉 他1篇 (岩波文庫)


『荒野の村』
『ブリギッタ』
『森の泉』
三篇。はじめてシュティフターの物語を読みました。
どの物語にも共通するのが、自然描写の豊かさ。
物語の約三分の一くらいが自然描写に費やされているのだもの。
いったい物語はいつ始まるのか、続くのか、と思った。
でも、慣れてくる。慣れてくる、というか、その美しさに自然と浸ってしまう。
ああ、急がなくていいんだ、まわりをゆっくり眺めながら、味わいながら、静かにそぞろ歩くように読み進めよう。
そう思った。草や風の匂いが気持ちいい。小高い丘からの俯瞰、青い森が美しい。


こういう舞台で、静かに語られる物語は、おとぎ話のよう。
美しい世界がどこかにあって、そこでは時間がゆっくりと過ぎていく。心優しき人々が暮らしている。
正直、あまりのまっすぐさに驚いたのも事実。ここまで臆面もなくまっすぐだと、いっそ清々しい。
うそっぽい、とも思わなかった。
なぜなら、彼らがただのお人よしではないからだ。
美しい荒野は、ただ美しいだけではない。
そこに暮らす人のおだやかな表情は、長い年月の不屈の精神力によって作られたもの。
心の内の激しい嵐を乗り越えて得たもの。
厳しい荒野を舞台に、濁りなく善きものを掬いあげる。信じる。そうしたい。
人も自然と溶け合って、一幅の風景画のようになっていく。