- 作者: 小堀杏奴,森まゆみ[解説]
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2010/09/18
- メディア: 単行本
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どれも『酒』という雑誌に掲載されたごく短いエッセイで、昭和30年代に書かれたものです。
『のれんのぞき』とのタイトルそのまま、
あちこちのお店や街角、職人さんたちの仕事場を、入り口からちょいとのぞいてみた感じが心地よいのです。
深入りしない、通りすがりの気やすさが楽しいのです。
昭和30年代って、こんな感じでしたか?
いや、このころでさえ、すでに後継者を心配するような職種ばかりを集めてみたのではないかしら?
羽子板の押絵作りや煙管作り、人力車や、番傘作り・・・
一世紀も前の日本にタイムスリップしたような気がする。
一方で、杏奴さん自身も、時代の変化の中で、小さなタイムスリップを味わっていなかっただろうか。
>生まれた家のある本郷の団子坂から、谷中、上野桜木町を経て、根岸へ通じるあの辺一帯はたとえどんな道筋でも、横丁でも、私には見覚えのあるものばかりで、もし夢にどこか解らないがよく知っている道が出て来たとしたら、必ずあの辺りと思ってよかった。文京区とか、台東区という馴染みのない名前をつけられてしまったが、本郷から、下谷、浅草へかけと書いただけで、昔の人にならその情緒が解ってもらえるはずだ。
>省線飯田橋駅に近くと書いてきて考えると、今は省線などという言葉は使わない。山手線とか中央線とか呼ぶようである。こういう文章に導かれてわたしもまた、杏奴さんの見ている町と、彼女の思い出の町とを歩く。
水を打った涼やかな湿り気のある土の匂い、濃い緑の匂いもある東京の風情に身をゆだねる心地よさを味わう。