- 作者: 栃折久美子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1975
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最近読んだ『美しい書物』(感想こちら)で、栃折久美子さんの名前を知りました。
ルリユールを、初めて日本に紹介し、広めたのが栃折久美子さんでした。
この本は、ルリユール(手作り製本、洋本では製本の原型)を学ぶためにベルギーに留学した四カ月間の留学記です。
最初は、ブックデザインの参考程度にルリユールを学びたい、という軽い気持ちから決意した留学。
ベルギーで暮らし、二人の素晴らしい師に恵まれ、良き友や理解者を得て、
栃折久美子さんの気持ちそのものが変化していきます。
まずは、ルリユールとブックデザインはまるっきり違うものだ、と知ります。
ただ一冊の本のために、イメージし、素材を厳選し、自分の技量の及ぶ限りの手作業で、膨大な時間をかけて仕上げるルリユールは、まさに芸術。
一冊の美しい本を作ることにのめり込んでいく。
やがて、ルリユールに関わる、そして日本人である、自分の未来の夢を大胆に展開していく。
そうして、栃折久美子さんは、本来なら四年も五年もかけて学ぶルリユールをわずか四カ月でマスターします。
留学、というスタイルの、青春記として読んでもおもしろい。
はっきりした性格の彼女の竹を割ったような物言いは気持ちがいいけれど、
ときどき垣間見える気持ちの細やかさ、繊細さもまた魅力的でした。
その彼女の目を通して眺めるベルギーの町や学校、人間模様の楽しいこと。
著者は、本について語る、ルリユールについて語る、道具やその扱い方や技術について語る。
そのとき、それらすべてが、彼女の生き方に直結しているように感じる。
たとえば、これほどまでにこだわる手作りの一冊。
でもそれは「金庫の中にしまっておくためにつくられるものではない」という。
そもそも「本・書物」とは一体何だろう、とさまざまな角度から考えました。
この世に本というもの(どんな形のものも)があるということの幸せも思いました。
モロッコ革の本というのは、シンプルな外観であるだけに、技術的にごまかしがきかないそうです。
そのシンプルさが、特有の美しさになっているそうです。
まるで、モロッコ革のように、栃折久美子さんの文章は、飾り気ない美しさです。
そうそう、すでに品切れになっているこの本(文庫で出ていますが)
モチロン糸綴じでした^^