アトリックス・ウルフの呪文書

アトリックス・ウルフの呪文書 (創元推理文庫)

アトリックス・ウルフの呪文書 (創元推理文庫)


魔法が生きていて、魔法使いがいて、諸国には王がいる、異世界のファンタジーです。
白い鹿や、白い馬、美しい女王とその家族のいる秋の金色の森。
白い狼が渡る雪の原野。
戦の庭を浚うのは闇の乗り手。
それは、幻想的な絵のようです。
物語は、作りこまれた世界が舞台の、まったくのフィクションです。
それにも関わらず、現実世界にまっすぐ対峙するよりも、ずっとリアリティを感じることがある。


類まれな強大な力を持つ魔法使いが怒りに任せて生み出したものは、
作り手でさえも、持て余すほどの大きな力を持った。
自分の命に替えても回収できないほどの恐怖を振りまいて。
自分の能力以上の力は使ってはいけない。もたないほうがいいのだ。
そう思いながら、この物語が現実の鏡のように思えて仕方がありませんでした。
人間の力で制御できないものを、なんで平和「利用」なんてできると思うだろうか。
ありえない。その力を持っているのは、過ちやすい人間。
自然の脅威はいつだって「想定外」
偉大な魔法使いは、そのまま自分の顔に変わり、よく知っている顔に変わりました。


ほっとするのは、城の台所の雰囲気。熱気と活気に満ちたなかで、鍋や皿が飛び交うけれど、
アリソン・アトリーの『時の旅人』の舞台を思い出して、なつかしかった。
とても忙しそうだけれど、人びとの会話も楽しく、なんだか寛げる気がします。