ネジマキ草と銅の城

ネジマキ草と銅の城 (世界傑作童話シリーズ)

ネジマキ草と銅の城 (世界傑作童話シリーズ)


銅の城のマンソレイン王は、まもなく千年の寿命が尽きようとしていた。
まじない師は言います。
王を救うのは、幻のネジマキ草だけ。
まじない師は自ら、ただひとりでネジマキ草をさがす冒険の旅に出ます。
そして、城には、夜ごと、王に物語を聞かせるためのお客がやってくる。
束の間、王の心臓のねじを巻きなおすためには、毎晩、胸がワクワクする物語を聞かせる必要があったからです。
千年生きた王に、さらにまだ千年生きて、末長くこの地を治めてほしい、と、みんなが願う王は、
むしろ、好々爺という言葉が似つかわしいようなおじいちゃんなのだ。


ネジマキ草は間に合うのか・・・
まじない師の冒険の旅の様子が、章ごとにほんの少しずつ紹介されていくのも、続き物語を読むような楽しみだったけれど
何より夜ごと語られる入れ子の物語が、どれも素晴らしいのです。
語る動物たちの個性そのまま、様々なテイストのお話は、いっぺんに読んでしまうよりも、
王がそうであったように、毎晩一話、一話、と少しずつ味わったほうがよかったかもしれない。
そんな勿体ないようなお話なのです。
私が好きなのは、畑ネズミの語る本当にささやかな物語ふたつ。
ちょっと「のはらうた」を彷彿とさせる、思わずほほえんでしまうようなかわいらしさがいいのです。
それと、「大きなザザーン」に魅せられた小さな砂丘ウサギの話。
こちらは、見かけによらず、この物語全体につながる深みを感じ、後になってから、もう一度読み直したくなるのです。


その物語をかたりつつ、王を見守る動物たちの輪がよい。
ウクライナ民話の『てぶくろ』のお話を思い出します。
銅の城も、王様も、てぶくろではないけれど、少しずつ増えてきて、寄り添いあう動物たちの姿から、
なんとなく『てぶくろ』を思い出しました。
一歩外に出たら弱肉強食の間柄なのだろうけれど、ここでは、一人の老人を気遣う同士となり、仲間になる、
束の間だからこその、壊れ易そうで、その分純粋で透明度の高い関係が、かけがえなく感じられて。


やがて静かに王国の歴史が語られますが、
短いなかに、冒険ファンタジーのエッセンスがたっぷり詰まっていて、
指輪物語ナルニア国物語などの壮大さを思い出します。
これまで楽しんだお話が、ビーズの一粒一粒のように、実は全部一本の細い糸につながれていたのだ、
ということも、このときに知らされて、ああと驚いたのでした。
この本を読むことは、絵巻物を眺めているのに似ているかも。


物語の外には大きな、太古から未来まで変わることなく広がる海がある。
この海は、動物たちの物語の中にもあり、外にもあり、
王国が生まれる前にも、栄えたときにも、消えたあとにも・・・
だから、砂丘ウサギが魅せられたように、惹かれてしまう。せめて耳を傾けたくなる。
すべて、海が語った、壮大で、ささやかな物語のように思えてきます。