星を数えて

星を数えて

星を数えて


「ぼく」の家族を中心にした連作(?)短編集です。
と、いっても、時系列どおりに並んでいるわけではありません。
たとえていえば、家族のスナップ写真をテーブルの上にばらばらに散らかしたなかから、
ふと手に触れた一枚、一枚について順繰りに語っている、というイメージです。


最初、面食らいました。
最初の一編が『世界のまんなか』
数人の少年少女の名前がでてきて、お墓参りに行こう、という話になるのだけれど、
彼らは何歳くらいなのか、いったいどういう関係で、この場面が何を表しているのか、作者は説明してくれないのです。
これは、わたしがテーブルの上から偶然手にとったスナップ写真の一枚(のようなもの。)
そうして、順繰りに見ていくうちに、ああ、そういうことなのか、といろいろなことが少しずつ見えてきます。


家族の死を通して、この家族は深い絆で結ばれている。死者が彼らのもとにずっと一緒にいる感じ。
厳格な程の敬虔な信仰心と、いなか町の人々の縁の深さを背景にして、
よりいっそう、この家族の結びつきを強固なものにしているようにも感じました。
親しく残酷な友人のように死が常に自分の隣にある生活のなかで、少年は少年の日を過ごす。
さまざまな場面で、様々な形で、少年のナイーブな心情の一端を垣間見る。
どれも好きだけれど、ことに印象に残るのは『ベイビー』
少しグロテスクで、透明感のある美しさが印象的で、
息をとめていないと空気の中に溶けていってしまいそうなくらいの儚くせつない一瞬が心に沁みる。


「ぼく」は作者自身だろう。この家族は作者の家族だろう。
だけど、作者の子ども時代が、本当に全部このとおりだったか、といったら、やっぱりそうではないだろう。
でも、この本を読みながら感じたこと、心の片隅に触れた事は、全部ほんとうのことだった。
作られた物語のほうが、よりいっそう真実を映しだすこともあるように。
この一瞬一瞬の真実が、そして降ってわいたような一瞬の輝きが、かけがえなく思えて、
この本がとても大切な一冊になるのです。


最後の物語は『ここに翼が生えていた』
『肩甲骨は翼の名残り』につながるような物語でもあるが、
背中に翼の名残りを確認しながら、自分のまわりの翼のある人たちに思いを馳せ、
さらに、自分に翼がないことは、翼があることと、紙一重の違いでしかないのだ、と思う。
取り返しのない寂しさではない。
神様(もしいるのなら)が、翼の名ごりを人間の背中にわざわざ残しておいてくれたことこそを、意味あること、と思う。