ジェンナ 奇跡を生きる少女

ジェンナ 奇跡を生きる少女 (SUPER!YA)

ジェンナ 奇跡を生きる少女 (SUPER!YA)


どこからどのように始めたらネタバレにならずに感想を書けるのだろうか^^
たくさんのテーマがぎゅうっと詰まった物語でした。
どのテーマにも、「ジェンナ」は手加減せず、疑問を掲げ、丁寧に向かい合おうとしていました。
先が気になって気になって早く読みたくて仕方がないのに、
どの一文も飛ばすことができないうえ、数行読んでは立ち止まって考えて、
思ったよりずっと時間がかかりました。


近(?)未来の物語です。
主人公ジェンナの置かれた状況は非常に特殊なのだけれど、
そこから、際立って見えてくるのは、普通の親子が普通に経験する自立の痛み、と思う。
親の保護のもとに言葉を獲得することから始め、自分の足で歩きだし、
やがて親の保護を支配と感じ、葛藤し、拒み、自分の人生を生き始める子ども。
絶えず、自分とは何者なのか、と自問し続ける17歳のジェンナの言葉はあまりにも痛々しい。
彼女は、たとえどんなことがあったとしても代わりになるものは何もない、唯一無二の自分であることに気づき、
それを受け入れる。
池から上がった水しぶきがファンファーレのように思えて、爽快であった。
それにしても、親も子もどうしても血を流さなければ、前にすすむことができないのだろうか。
子の成長は、めでたくて辛い。


わたしも親だ。あの状況でのジェンナの両親の気持ちは痛いほどわかる。
きっとわたしだってそうする。深く考えたりもしない。すがるようにそれに賭けるだろう。本能なのだ、と思う。
だけど、どこまでが子への無心な思いで、どこからがエゴなのかわからなくなってくる。
「怪物」という言葉が何度もでてきた。
その怪物は、姿ではない。ジェンナが思っているようなものでもない。怪物は、人の気持ちの中にいる、と思った。


この物語には、もう一つ別のテーマがある。(いや、本当はもっとたくさんあるのだけれど)
持ってはいけない力がある。使ってはいけない力がある。
人間は自分の手に余るものをつくってしまう。つくったら使わずにいられるだろうか。
そうして、進めてしまった一歩を後戻りさせることはたぶんできない。
人は、答えを出せない問題に、無理やり答えを出し、あるいは答えを保留にしながら、進んできたのだ、と気づく。
いつか払わなければならないツケは確実に膨らんでいく。
そうして・・・。ぞっとする。


訳者は、「あとがき」のなかで「賛否両論があるだろうと思われる結末」といいます。
多くの重たく難しいテーマ、たくさんの問いかけが、この本の中には、広げられています。
これらの問いかけすべてに対して誠実であろうとすればするほど、いったいどんな結末に繋がるのかわからなくなります。
多くのテーマのうちのある面から言えば、この結末は、美しい善なのだ。
(P.369の太字で書かれた三文字の言葉をわたしは噛みしめるように味わう)
でも、別の面から言えばとても善とはいえない。
さらに別の面から言えば、矛盾に満ちている。
(そういう意味で読めば、この物語は、何も解決していないのだ。)
どんな「結末」もきっとベストではない。
ラストで感じる頼りないような気持ちはたぶんそういうことなのだろう、と思う。