鉄のしぶきがはねる

鉄のしぶきがはねる

鉄のしぶきがはねる


高校の部活モノ、とはいえ、工業高校、部活の名はものつくり部。ものつくり、の「もの」は鉄でできている。
鉄を溶かしてくっつけたり、削ったり、たたき出したり。
なかでも「旋盤」という機械を使って技術力を競う「ものつくりコンテスト」の全国大会をめざす高校生の物語です。
まったくなじみのない世界でした。かなり地味なんじゃないの、と思ったが、
「ものづくりはなくならんよ。なぜなら、ものづくりは、楽しいからだ!」
という言葉に、はっと目がさめました。
楽しいって言葉がまぶしかった。
わたしのささやかな生活のなかでも、いつのまにか効率ばかりを考えて、楽しいという言葉を忘れかけていたことに気がついた。


ものつくり部の四人の部員たちは、楽しんでいた。
機械と一体になる感覚、機械を自分の体の一部にするような感じ、
そこから生み出されるものは、冷たい鉄であるはずなのに、ほんのり温かく明るい。
楽しいと、無機質だと思っていたものも、弾力がでてくるんだ。
それに気がつくのは、やっぱり「楽しい」気持ちで何かに打ち込んでいる人なんだろうな。
そう思ったら、「なんで旋盤・・・」という気持ちがするっと消えて、彼らをひたすら応援していた。


この物語の主人公は女の子です。
男子の多い工業高校では、マイノリティ。マイノリティであることはしんどいよね。
悔しい思いもし、葛藤もしながら
「自分のままでがんばればいい」「ずっと自分」と言えるようになるまではまだまだ遠い。
でも、身近に、同じ思いを抱えて道を切り開いてきた同性の先輩がいる。それはとっても幸福なことだと思う。
(そして、いつか、いつのまにか、彼女自身が、後に続く誰かの道を切り開いているのかもしれないね。)
地道に足もとを固めながら、成長していく主人公の姿は、見ていて気持ちがいい。