最後の冒険家

最後の冒険家

最後の冒険家


マチュア(であることにこだわった)冒険家、神田道夫さんは、単身、自作の気球で太平洋横断中、消息を絶った。
著者石川直樹さんは、神田さんの相棒でありチームの一員でした。
2004年、神田さんとともに熱気球太平洋横断に挑み、失敗。九死に一生を得ています。


2007年、神田さんは、再び挑戦。単独決行に踏み切ります。
神田さんは、この旅に著者を誘いますが、著者は断っています。
一度失敗(命が助かったことは運であった)しているにも関わらず、このたびの神田道夫さんの計画はさらに無謀なものであった。
著者は冷静です。
神田さんに惹かれ、冒険家としての神田さんを高く評価しながらも、同時にその弱点も把握しています。
神田道夫さんと著者石川直樹さん。
親子ほどに歳もちがう。性格もちがう。
同じく「冒険」に魅入られながら、その価値観も方法も、すべてが違う。
同じ目的を持ったとしても、一緒に行動することは不可能だったのではないだろうか、と推察する。


いつどこで聞いたのだったか、誰が言ったのだったか、
「成功すれば冒険、失敗すれば無謀なだけ」という(ような)言葉を思い出しました。
紙一重なんだ。
その紙一重に賭けることができるかどうかなんだ・・・
紙一重のところのぎりぎりのところに見えるのはどんな光なのだろうか。


神田さんが消えたことによる著者の苦しみはどんなだっただろうか。
だけど、止めることなど不可能だったのだ。


出会ってから数年。神田さんとともに憧れ、夢をかけて計画、冒険し、命をかけて、そう、一度はともに絶命しかけた。
神田さんの冒険家としての心を最もよく理解する人の一人だったはず。
その著者が、このとき、神田さんと袂を分かちつつ、大空へ送り出した。
著者だからこそ、神田さんを真の「冒険家」と呼ぶ。敬意をこめて「最後の冒険家」と呼ぶ。


音信が途絶えたあと、上空はるかな場所で、一体何が起こっていたのか・・・
著者は想像する。ありえたはずのことを。
地上の著者と天上の神田さんの思いとがひとつになるような、不思議な清澄さ、静けさを味わう。
それは、サンテグジュベリの「夜間飛行」を彷彿とさせます。


表紙の不思議な「箱」の写真を、「ああ、これが・・・」と読み終えたあとに新たな思いで、新たな意味で、見直します。
神田道夫さんは未だ発見されていません。
彼は、天空はるかなところでまだ冒険の途上にいるのかもしれない、そんな気がしてくる。
表紙の写真は・・・はるかな旅路にある神田さんから著者への便りのようにも思えてくる。