ピートのスケートレース ―第二次世界大戦下のオランダで―

ピートのスケートレース (世界傑作絵本シリーズ)

ピートのスケートレース (世界傑作絵本シリーズ)


ドイツ占領下のオランダ。国境に近い町。
少年ピートは、知り合いの姉弟を隣国ベルギーに逃がす手助けを頼まれます。
彼らの父が逮捕され、彼らにも危険が及ぶかもしれないのでした。
ピートはスケートが得意(憧れもある)。子どもである。そしてごく「普通に」誇りを持ったオランダ人であった。


タイトルと副題、そして表紙の絵から思いだすのは、昨年(ちょうど今頃だった)読んだ『楽しいスケート遠足』と、『アンネの日記』でした。
『楽しいスケート遠足』の、運河を遠くの町まで滑って行くオランダの子どもたちの姿を思い出します。
あの本の子どもたちはとっても楽しそうだったのに、この本の表紙の暗いこと。
『楽しいスケート遠足』の子どもたちのように、
表紙の三人の子どもたちも手をつなぎ、繋がってすべっているのに、いかにも不穏な感じなのです。
・・・荒涼とした風景。頭上遠くに飛行機(戦闘機?)の影。


絵本は横長。
ページを繰っても繰っても冬の荒涼とした風景。
時間は学校が引けたあとの夕刻なのだ。もう闇が迫っている。
言葉少ない子どもたちがなんて小さく見えるのだろう。
かたまって滑って行く彼らの不安がひしひしと伝わってくる。
枯れ木立や兵士たちの軍服は茶色、氷と雪で閉ざされた大地も運河も冷たく白い。
暗い色が広がるページからページ・・・
そのなかで、ピートの胸に納められた手帳の赤い色が、明るく温かく、光を放っているようで、強い印象になって残ります。


最後には思わず涙が出てしまった。嗚咽をとめることができなかった。
思えば、誰もが、目に見えない赤い手帳をもっているのかもしれない。
どれだけたくさんの書き込みが残されているだろうか、と感謝とともに振り返る。


多くの迫害されて苦しむ友を助け支援し続けたミープ・ヒースさんの本『思い出のアンネ・フランク』(感想はこちら)を思いだしていました。
ミープ・ヒースさんは、あの本のなかで、
ご自身を英雄だとは思っていない、といいました。
「「よきオランダ人」がみんなやっていたことを自分もまたしていたにすぎない」と言っています。
「よきオランダ人」の意味のなんという重さ。
だけど、それを子どもに求めるのは(求めるしかないような時代は)あまりにも辛い。
普通の人が英雄にならずに「よき人」でいられる時代が、どんなに貴重であることか。