メゾン テリエ


四つの短編。表題作が一番おもしろい。
踊る踊る、華やかにくるくると物語もダンスしているよう。
娼館なのに、きわどい表現はすべて遠ざけられて、
田舎町であること、人々にとって若い娘がテリエ館で働くことは、寄宿舎に入るくらいの感覚なのだ、ということから、
この物語にでてくる女たちはエロチックというよりも、はちきれんばかりの健康的なイメージがあった。
かしましくも楽しい女たちの遠足(?)の物語。
コロコロと笑い転げるように、踊るように軽く読み進めていく。


若い頃『脂肪の塊』を読んだ。
ごくごく短い物語なのに、なんとも苦々しく、強烈な怒りとともに自己嫌悪がわきあがってきたのを思いだす。
読んだ本を次から次にどんどん忘れてしまうわたしだけれど、この短い物語は、かなり隅々まで鮮明に覚えています。
この脂肪の塊に比べて、なんという軽やかな『メゾン テリエ』
と思っていたら、痛烈な皮肉な展開に苦笑い。

脂肪の塊も娼婦。そして、メゾン テリエのめんめんも娼婦である。
なのに、不思議な清らかさ、純粋さを感じて、むしろ、そうではない周りの人たちのほうが下劣で滑稽に思えた。