禁じられた約束

禁じられた約束 (Westall collection)

禁じられた約束 (Westall collection)


少年の日の憧れや初恋の甘美さ、読みの甘さ、情熱と危なっかしさ、痛々しいくらいの生真面目さ、純粋さ、不器用さなどに、
はらはらしたり、微笑ましいと思ったり、・・・


ホラーであり、冒険の物語でしたが、
同時に、この物語すべてが、現実というよりも、ボブという、大人になりかけた一人の少年の心の中の物語のようにも感じます。
戦争や死との対峙(?)も、ロウティーンの心に渦巻く嵐が、形を与えられてそのような姿になったようでした。
大人になるための厳しい通過儀礼だったかも。


火に飛びこむ夜の虫のように、
危なくて暗いもの、近づいてはならないものが持つ独特な空気に、甘美なものを感じて、ひたむきに惹きつけられていくボブ。
若々しく生命に満ち満ちて人生が無限に開けている若者にとって、不治の病や戦争が「死」に直結しているということはこんなにも非現実的なのだ。
きっと自分はそこを覗いても引き込まれることはないというような、根拠のない自信、傲慢さに、読んでいてはらはらします。


一方で、そんな若い日に死ななければならない少女の運命はなんて皮肉なんだろう。
生命力に満ち溢れた、恋人の死の運命さえ実感として信じることのできない当たり前に鈍感な相手を愛しているということは、
そして、そばにいたいと思うことはなんて残酷なことなんだろう。
当り前さと未来とを最初から奪われているというのに・・・。


甘く美しいものであると同時に、狂気をも孕んでいるのが恋だよ、と苦く感じ、
ずんずん深入りしていく若者たちが、ときには危なっかしくて見ていられない、と思う。
まして初恋、ことさらに儚い初恋。
若い一途さは、美しすぎて、現実の世界から遠く離れていきます。恋は生と死とどちらにより近いのだろうか、とぼんやり考えてしまった。


ボブの父やヴァレリーの父の存在(二人ごっちゃに合わせての父)の大きさが印象に残ります。
親たちのさまざまな面をちゃんと子は見ていますが、
心の内では父の価値観や人生観にまだまだ頼っているし、相談もしたいし、何より父を尊敬しています。
父親と男の子の信頼関係、ちょっと羨ましいです。
二人の父親の存在感を意識しつつ、手を借りつつ、ボブはやがて彼らを越えていく、いつか彼らを庇護する立場にさえなっています。


ともに去っていった二人が、「恋」と「戦争」からやってきたことは大きな意味があると思うのです。
二人といっしょに、ボブの中から一つの時代も去って行きました。
そうして、亡くした人を弔いながら、自身の幼い日々をも弔っているのかもしれません。
父子の関係が素敵であるだけに、子の独り立ちの姿に、いっそうの感動があります。
そう思えば、クライマックスで、近づいてくる爆音さえもファンファーレのように思えます。