マミー

マミー

マミー


ダブリン、ムーア通りの広場で果物を売るアグネス・ブラウンは七人の子持ち。
夫が交通事故にあった日、市役所の社会福祉課に寡婦年金を申請しに来たところから物語は始まります。
と、書いただけで、その生活がどれほど大変か、と改めて思います。
大変ではあるけれど・・・アグネス、苦しそうにはみえない。
「苦」という言葉は似合わない。
苦しんだり、へこたれている暇もないだろう。食って、食わせていくためにはね。
いえ、そもそも、涙にくれたり、後悔したり、ということが彼女には似合わないのです。


美人だけれど、口は悪いし、教育もない。
この町の外で何が起こっているかも知らないだろう。
決して品がいいとはいえない(とんでもないとも^^)アグネスですが、怠け者ではないし、強いです。
しなやかに強い・・・おそらく上品で教養のあるだれにも引けをとらない「何か」を持っている。


その「何か」ってなんだろう。
口はばったいことを言えば、子どもたちや友人への絶対の信頼と愛だろう。
いや、たぶん、自身の人生に対する信頼と愛です。生きていくことに対する全面的なYESです。
彼女のすべてはその上に建設されているような気がする。
それは、たぶん、「教育」では決して身につけることのできない大きな大きな知恵だと思う。
次々に起こる可笑しな事件や、ちょっとほろりとする事件に、ただ笑い転げ、涙をこぼしながら、
読めば読むほどに彼女が好きでたまらなくなってくる。


人生は残酷なことの連続だ。あっというまに大切なものをうばっていってしまう。
だけど、時には、とんでもなく素晴らしい贈り物も置いていく。
懸命に生きる人々への応援歌かもしれない。


心に残るのは、マリオンの祈りの言葉、そして、アグネスがあの日聞いた言葉です。
(こんなに純粋で素直な信仰って見たことがない。)


そうして、思う。
生きていくって素敵だなあ、
ただひたすらに生きていくって素敵なことだなあ。


テレビもなかなか買えない、
カーペットもなかなか買えない、
子どもへのクリスマスプレゼントのための資金をどこから調達しようか、と悩んでも、
なんだか大金持ちみたいに幸せそうじゃないの、アグネス。