カイウスはばかだ

カイウスはばかだ (岩波少年文庫)

カイウスはばかだ (岩波少年文庫)


ポンペイでおこなわれている最近の発掘にさいして、「カイウスはばかだ。」と子どもの手でらくがきされた神殿の壁が出土した。すでに古代ローマにおいても、子どもたちがこういうやりかたで気ばらしをしていたのかと考えて、作者はこの本を書くインスピレーションをえた。
これは巻頭の言葉です。
ここを読んだだけで、嬉しくてにこにこしてしまいます。
子どもの落書きの遺跡だなんて。
はるか遠い昔、歴史の教科書や神話の中にだけ存在していた古代ローマでしたが、
そこに住んでいた(見たこともない)子どもたちが突然身近になりました。


主人公たちは、古代ローマの学校(私塾)の生徒7人です。
といっても、この時代に有名な私塾に通うのは名のある貴族の息子たち。
奴隷を何百人も侍らせるような裕福な家の子どもたちなのです。
でも、中身は普通の子どもです。
彼らは、授業中に私語をかわし、先生にあだ名をつける。
いたずらをしたり、派手に喧嘩をしたりする。
だけど、仲間のだれかが危機に陥れば、団結して、友だちをなんとか救い出そうと必死になる。
額を寄せ合って相談し、ローマの町を駆け回り、それぞれに知恵をめぐらす。


作者ヘンリー・ウィンターフェルトはドイツの作家。
だから、もしかしたら、この七人、「エーミールと探偵たち」のご先祖さまかもしれないです。
半ズボンをはいていても、トーガを着ていても、おんなじ子どもなんですよね。
子どもたちが、だれかのためにひたむきに、夢中で駆け回る物語は素敵です。
謎ときもおもしろいけど、彼らの会話がとても楽しい。
そして、彼らを見守り力を貸す、大人の存在もよかった。


ローマの人々の暮らしも、ほんのちょっと垣間見ることができたのもよかった。
学校の始業が夜明け前で、終業が暗くなってからだなんて、大変。だから子どもたちは一人一人カンテラを持っているのですね。
地球が丸いなんて、冗談にも考えることのなかったこの時代に、毎日のニュースを伝える「日報」(かわら版)がすでにあったのか。
テーブルを囲むソファ(?)に横になりながらの貴族の会食には、びっくりしました。
裕福な家は、窓にガラスも嵌めてあったのですね。


カイウスはばかだ。で始まり、
カイウスはばかだ。で終わる物語。
あはは、と爽やかに笑って本を閉じられるって、幸せです。