虫とけものと家族たち

虫とけものと家族たち (集英社文庫)

虫とけものと家族たち (集英社文庫)


生きもの(動物・昆虫・爬虫類などなど)マニアの末っ子ジェリー(10歳)が語り部となって語る家族の話は、
暗く騒々しいイギリスから逃げ出すように、陽光輝くギリシアのコルフ島へ引っ越すところから始まるのです。
気候は温暖、風光明媚、生きものの宝庫コルフ島。
隣人たち(?)との濃密な交流。
ゆったりと流れる時間。
一日一日が、まるでユートピアのようです。


一家の日々は、(たいていジェリーの持ち込む生物のせいで)一騒動起こるのですが、
その騒動ときたら・・・
百回くらい家出したくなりそうな・・・
たとえば、あのサソリの子沢山とか、カササギの酔っ払いとか、蛇の入浴とか・・・ごにょごにょ。
居合わせた人は大迷惑ですが、成長したジェリー本人から語られる描写には、時に噴き出し、くすくす笑わずにはいられないのです。


笑わせるばかりではありません。
時には、じんわりと沁みるような温かな余韻に、こんな豊かさもあったかと、ため息をついてしまう。
ジェリーの家庭教師クラレフスキイさんの年老いたお母さんのお話「おしゃべりをする花」などで。


大きく見れば、日々の一つ一つのあれこれが、豊かさと平和の象徴のように感じられる。
全てが、幸福の光の中に。
一章読み終えるたびに、ふくふくと満ち足りてため息をついてしまう。
そしてこの幸福な日々が過ぎ去った日々であることがまた、胸しめつけられるようなせつなさを呼び起こす。
ああ。


23歳を筆頭に男女四人兄妹と、その母。
実に個性的な兄妹です。
それぞれに、全く別の方向を向き、好き勝手やって、しかも、それぞれの専門分野(?)でそれぞれに傑出している、という点で。
これだけ凸凹していたら、まとまるものもまとまらないだろう、と思うのですが、不思議、うまくいっている。
それは、互いが互いの世界を、表には出さないまでも、尊重し、敬意を払ってもいるからだろう。
口ではひどいことを言い合いながら、気持ちは必ずしもそうではない。見かけによらず。
家族だけではなく、友人たちも、ともに暮らす動物たちも、鳥たちも、虫たちも・・・
みんなまとめて大きなファミリーのようで、おおらかな喜びが湧き上がってくるのです。


そして、この幸福なまとまりのカナメにいるのが、チャーミングで、受け入れが大きな(むしろ天然)おかあさん。
子どもたちみんな、あの辛辣な皮肉屋の長男ラリー(実はかなり好き^^)でさえ、おかあさんを大切にしている。
その調和がとってもいいなあ。
(この本の献辞は「母に」になっています。)


もっともっと読んでいたい、この家族の物語をずーっとずーっと読んでいたい。
終わってしまうのがもったいない・・・・もちろん終わりませんって。
この続きが後二冊あることに感謝です♪ 


(おまけ)
アレクサンドリア四重奏」読みたいと思っているのですが・・・あのラリーが書いたんですよね^^ 
イメージが・・・