キミは知らない

キミは知らない

キミは知らない


悠奈の通う高校の図書館には、彼女の亡くなったお父さんの本(一冊だけ)がある。
とくに読書に興味もない悠奈が図書館に行くのは、亡くなったお父さんに会いに行くようなものだったかもしれません。
ところがある日、いつも閑散としたその一角で、おとうさんの本を手に取っていた先客は、数学の非常勤講師。
お父さんの本がきっかけで親しく話すようになったその先生は、ある日突然彼女の前からいなくなってしまった。


そもそも先生はなぜ悠奈の前に現れたのだろう。
大好きな先生とお父さんとは、もしかしたら何かつながりがあったのではないか。
お父さんが彼女に遺したもの、遺せなかったものがふいに気になり始める。
悠奈は、先生の跡を追って、ひとりで遠い町に向かいます。


伝統と因習が色濃く息づく独特の町です。
着いた早々、何かが彼女の周りで動き出す。
あっちからこっちから、意味ありげな丁寧さ、強引さで。
何がおこっているのか、またおこっていることは彼女とどう関わりがあるのか、
その関係者たちは、どう繋がり、彼女とどうかかわっているのか・・・単純に言えばだれが敵で味方なのか。
彼女が台風の目ってどういうこと???


何が何だか分からないままに、追われて追われて逃げる隠れる逃げる。手に汗にぎるとは、このこと。
はらはらどきどきの連続に、周りの物音が消え、時間を忘れました。


主人公悠奈は、他の登場人物もびっくりする度胸の良さなのです。
育ちのよさそうな控えめなタイプに見えるのですが、大胆な子です。
追われる渦中であっても、かなりヤバそうな場面でも、よく食べるし、ころっと眠ります。
だいたい、去って行った憧れの先生を追いかけて遠い町まで一人旅してしまうあたりから、ね。
すごくパワーがある。思い切りもよいのです。
自分の人生を切り開いていこうというまっすぐさに人は引き寄せられるのかもしれません。


過去の因習にとらわれた閉鎖的な町。
いったいこんな地域が日本のどこに残っているのか、とも思うが、
この物語、見方を変えれば、古い世代と新しい世代の葛藤にも見える。
パワーあふれる現代っ子が、因習的な価値観のなかにすっぱりわけいって、自分の未来を自由に堂々と掴み取ろうとする、そのすがすがしさ。
しかも彼女は古いものを真っ向から否定するわけではない。
彼女なりの新しい澄んだ目でみつめ、自分の頭で考えて、それを見据え、自分なりの価値観を打ちたてようとしている。
未来の選択肢のなかにあるひとつの形として。
それがとても清々しい。


「・・・未来より過去を選んだわけじゃない。未来は過去からもつながっているものだよ」
印象的な言葉です。