サイのクララの大旅行

サイのクララの大旅行―幻獣、18世紀ヨーロッパを行く

サイのクララの大旅行―幻獣、18世紀ヨーロッパを行く


オランダ東インド会社の船長ヴァン・デル・メールがインドサイのクララをヨーロッパに連れてきたのが1741年。
それから約17年間、クララとヴァン・デル・メールとは、ヨーロッパじゅう巡業してまわった。
ヨーロッパの大多数の人々にとって、生きたサイという動物に接したのはこれが初めてのことだそうです。


1741年から17年間・・・年号でそういわれてもわたしには、ぴんとこないのですが、
クララ巡業のおり、フランスではルイ15世が、オーストリアではマリア・テレジアが、クララ見物にやってきた、
ということから、ああ、これは『ベルサイユのばら』の少し前の時代なのか、と納得。


しかし、なんだろう、この本の奇妙さって・・・
当時の人々が、幻獣の実物を見てびっくりしているように、そのびっくりしている18世紀の人々の姿を、現代のわたしはびっくりして見ている。
この時代そのものがまるごと「幻獣」のようで、怪しいこと、不思議なこと・・・新鮮なこと。


この本の雰囲気、何に似ているかしら。
キアラン・カーソンの『琥珀捕り』の雰囲気をちょっと思い出す。
この時代のあまり知られていないさまざまな風俗や文化、因縁(?)など、へえーと驚くことがたくさん。
たとえば、某『博物誌』には、サイはユニコーンと同じ要領で捕獲することができる、と書いてあるそうだ。
サイを待つ次の都の女性たちのヘアスタイルなどにもご注目、です。
そういう不可思議大陸をサイのクララは特注の馬車に乗せられ、ゆるゆると運ばれていく。


そこはかとなくおかしいのは・・・
たとえば、ある日、クララの角が予期せずぽろりと抜け落ちてしまう。
文中、「クララの角が抜け落ちたのだ」
(と、こう抜き書きしながらまた笑ってしまっている。)
この一文の前後にも特に可笑しい話があるわけではないのだけれど。
不思議がいっぱいの18世紀にすべりこみ、ヨーロッパじゅうでただ一頭だけのサイをかこんで大騒ぎの人々のあいだにいるような気がして、
いや、サイそのものになったような気がして(?)人々の大騒ぎは楽しい見物であった。