オスカー・ワオの短く凄まじい人生

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)


性格はとてもいいと思うのだが、よすぎて、からかわれる以上には相手にされることもない。
見た目はあんなだし、空気は読めないし・・・
一言で言えばイタイ人。
世の中の片隅で、自分の好きな世界を極める方向で、平和に静かに生きていけたらよかっただろうに。
彼が女の子大好きだったことが問題だった。
何度も何度も恋をして、でも決してうまくいかない(いくわけがない)
彼は、一族の呪い、ドミニカに伝わる「フク」を一手にひきうけているようだった。


ドミニカを恐怖政治で支配した独裁者トルヒーヨ(検索してみた。ほんとにいたんですね。やったことも誇張じゃなかった)
その残虐非道さの犠牲になったあまたの人々の中にオスカーの祖父母がいた。
時代は変わる。
時代は変わり、人々は辛い時代を忘れて前進しようとする。
無理やりにでも終わったことにして、終わったことを蒸し返すまいとする。
だけど、
本当は終わっていないのだ、忘れられないのだ、一度体験した恐怖と不幸は幽霊になってずっとそこに留まるのだ。


呪い、「フク」という言葉には、その記憶がこもっている。
オスカーの人生を描きながら、オスカーの一族の歴史をも描いていきます。
オスカーの祖父母、オスカーの母、そして姉・・・彼らの物語は、嘘みたいによく似た不幸が繰り返されている。
こんな場面を前にも見たような気がするな、と思いながら読みます。
歴史は繰り返すのだろうか、とも思います。


オスカーの姉ロラの言葉が心に残ります。
「私たちは一千万人のトルヒーヨなのよ」


エネルギッシュな物語です。
土臭くて、怒りに満ちた逞しい人々。この逞しい人たちは、繰り返し訪れる「フク」に、独裁者に、踏みつけられても何度でも立ち上がる。
立ち上がりながら賢くなっていく。
圧倒的な力を持った悪にはあらがいようがない。怒りながら、逃げる。いや、むしろ逃げて生きのびることが抵抗。


あえて、立ち向かえるのはオスカーみたいな男しかいないのかもしれない。
泥沼を何度もはいずりまわされ、裏切られ、ぴーぴー泣いてとことん落ち込んだりするくせに、性懲りもなく
めちゃくちゃ現実離れした星のような夢を後生大事に抱き続けた男しか。
たくさんの御託。SFやファンタジー、ヒーローもののセリフやら攻撃やら武器やらが、形容詞がわりにポンポン出てくるオスカーの周辺。
不幸さえ、笑い話にしかならないかもしれないような男だけれど。
大勝利を感じるのはなぜかな。そして、
Imiss you,オスカー。