ツバメの谷(上下) 岩波少年文庫・全巻改訳

ツバメの谷(上) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)

ツバメの谷(上) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)

ツバメの谷(下) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)

ツバメの谷(下) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)


ツバメ号は新しい船、いや、新しいどころか、もっとよい船になっていた。なぜなら、ツバメ号は若さをとりもどした上に、今までの記憶をそのまま持ち伝え、心の中は昔ながらのツバメ号だったからだ。
壊れたツバメ号が修繕されて戻ってきたのを前にしてのウォーカー家の四人の子どもたちの言葉がこれです。
この言葉、そのまま、新しく岩波文庫に入った改訳版のツバメ号シリーズにも言えるのではないだろうか。
旧訳・新訳二つの「ツバメ号とアマゾン号」シリーズを神宮輝夫さんの文章で味わえるなんて、なんと贅沢なことだろうか。


改訳版一巻の「ツバメ号とアマゾン号」が去年の夏で、ほぼ一年ぶりくらいに二巻です。
以前、シリーズ続けて読んだときには、わたしは「ツバメの谷」には他の巻ほどの思い入れがありませんでした。
一巻が素晴らしくて、一巻の冒険に気持ちよく酔い、
二巻でも、そのままの舞台・そのままの冒険が、さらにその先の冒険が待っているか、と期待したら、
ツバメ号は不在、アマゾン海賊もフリント船長も受難で、ヤマネコ島からも離れてしまう・・・それが「ツバメの谷」。
おおいに不満もあったのです。


でも、前巻から一年という時間をおいて、この本を手にとってみた今、この子たちに出会えたのがただもううれしくてうれしくて。
大切な仲間(ツバメ号ももちろん仲間ですとも)の不在は寂しいけれど、
彼らの夏休み、一日一日が輝ける極上の遊びの日なのでした。
彼らの遊びの手腕も素晴らしい。(四人で四つのテントを二分以内に設営してしまうんだから)
子ども時代にあんな夏こんな夏を過ごして育った彼らが、わたしはもう羨ましくて羨ましくて(笑)


一番好きなのは最後のツバメ号とアマゾン号のレース。
これで全員勢ぞろいだもの。何度もいいますが船たちももちろん仲間ですって。ちゃんと人格を持っている、子どもたちはそれを知っている。
船と乗組員とが、息のあったチームになっているんです。
ツバメ号を走らせるのはウォーカー4兄妹だけれど、風を受けて走ることを喜んでいるツバメ号の描写が好きです。
そして、船が全身で喜んでいることを感じとっているジョン船長も好き。子どもたちと船とが一体になって湖を滑っていくのはなんて気持ちいい。
どちらが勝つか、なんて問題じゃないのです。もう、何ひとつ障害もなく、ただこの気持ちよさに浸りきっている。
久々に走る船と、久々に船を走らせる水夫たちとが、互いに喜びあっている。
そして、まだまだたっぷり残っている夏休み。本当の夏休みが今始まる。


(過去に書いた旧訳版「ツバメの谷」の感想はこちらです。)