戦争と平和(五)

戦争と平和〈5〉 (岩波文庫)

戦争と平和〈5〉 (岩波文庫)


第三部第三篇、第四部第一篇・第二篇、収録。
世界史が生半可(以下)なため、フランスとロシアの戦争やそれに関するトルストイの考察(?)が正直よくわかりません。
物語の途中に挟みこまれた訳者のコラムは、時のロシアの風俗、習慣、考え方など、わかりやすく解説されていて、とても助かりました。
でも一方で、当然教養として知っていなければならないこと(たとえば、物語中で現在進行形の戦争の顛末です)をまるで知らないわたしは、困惑することが多かったです。
物語の舞台が戦地になると、とたんに眠くなる。フランスとロシアの布陣・行軍が記された地図もさっぱり読めていませんでした。
モスクワの陥落だけはしっかりと印象に残りましたが。
そして、戦争の行方は、一人の英雄(ナポレオンとかロシア皇帝アレクサンドル一世とか名将クトゥーぞフとか)によるものではなく、
時代と民衆の勢いみたいなものによる、との話にはなるほどと感じ、おもしろかった。


こういう時代背景のなかで、人々の動きは活発。
ニコライもナターシャも坊ちゃん嬢ちゃんだなあ、と思っていた。
感情に流されやすい、弱い。
でもそれをあまり顧みない(ようにみえる)ニコライと、自分の責任を強く感じるナターシャと。
二人似ているけれど、印象は全く違う。


ソーニャがニコライに手紙を書き送った事情など、正直、ほっとする。天使じゃなくて、普通の人間だったんだってことで。
アンナ・シェーレルのサロンは、一巻からずっと時間がとまったかのように変わらない。そして、ワシーリー公爵を始めとするその常連たちも。
いったい戦争はどこでやってるんだ?
否応なしに戦争に巻き込まれていく民衆がいて、現にモスクワが燃えている、というのに、この華やかな雰囲気にはさすがに違和感を感じる。皮肉だなあ。
エレンの悪女ぶりは、時代の波を乗り越えていく・・・と思ったら、なんだかあっけなかったじゃないか。


ピエールのことが最近は、一番気にかかります。
真剣に誠実に生きようとすればするほど、極端から極端に走り、実際喜劇になってしまう。
だけど、必死に自分の生き方を模索する彼の生真面目さが憎めない。
今まで、頭の中だけ、机の上だけで理屈をこねまわしているように見えたんですよね。
行動しているように見えるけれど、核心(?)ではなく、そのずっと外側でちょろちょろ忙しくしているようにも見えたのだけど。
モスクワでの少女救出、プラトンとの出会い、このあたりで、否応なしに渦の真ん中に放り込まれたようなイメージです。
アンドレイの考え方に同感と感じたピエールだが、その同感から受ける感覚は行って帰るほどにちがっているのが興味深い。
アンドレイは、「悲しみとアイロニー」を感じていたが、ピエールは「完全な幸福」と感じる。
ピエールの考え方、感じ方、わかったようなわからないような・・・だけど、この広がり、世界と一続きの感覚、なんだかいいな、と思う。
アンドレイと同じことを考えながら、感じ方が真逆なのも、
ナターシャとニコライがよく似ているのに生き方がまるっきり違っているのも、おもしろいものだ、と思う。


さて、いよいよあと六巻一冊を残すのみ。
戦争も終盤を迎えつつあるようです。ピエールの運命やいかに。
ナターシャもマリアも、ニコライもソーニャも・・・どうなっていくのだろう。