ロンドン幽霊列車の謎

ロンドン幽霊列車の謎 (辻馬車探偵ネッドの事件簿) (創元推理文庫)

ロンドン幽霊列車の謎 (辻馬車探偵ネッドの事件簿) (創元推理文庫)


主人公ネッドは、辻馬車の御者で、「好奇心のかたまり」「人間学の研究者」と呼ばれるくらい、客を見る目も推理力も際立っています。
そして、彼の後ろ盾は、ロンドンじゅうの御者仲間六千人。
一口に御者といっても、この仕事に就くまでにいくつかの職を転々としてきたものばかりで、
それぞれ(といってもほんの一部ですが)の経歴を知るだけでうほほほーいとうれしくなってしまう。
ありとあらゆる分野のスペシャリストを擁している最強の六千人なのです。
さらに時代設定と舞台が魅力的。
愛馬ぺルセウスのひくネッドの馬車に乗せられて、ヴィクトリア朝ロンドンを見物して回っているようで楽しかった。
登場人物たちも興味深いこと。
踊り子、職工、教授、そして警察、軍人、裏の世界の怪しい面々・・・
オスカー・ワイルドカール・マルクスまでが、実名でちらっと顔を見せるサービスに、にこにこ。


辻馬車を降りたとたんに御者ネッドの前から忽然と消えた奇妙な客は、その後死体となって発見されます。
殺人事件だ、と思っていたら、実はこの怪死は途方もない大きな事件のほんの発端にすぎませんでした。
物語はとんでもない方向に進んでいくのですが、
ここに、時の社会事象をさりげなく織り込んでいるのが、興味深いです。
事業主に搾取され続けてきた労働者たちが声を上げ始めた時代だったのです。
ネッドたち辻馬車の御者たちも労働条件と賃金の改善を求めて辻馬車労働組合を作ろうとしますが、なかなかうまくいきません。
またガールフレンドのミリーはダンサーで、いつか大きな舞台に立ちたいという夢にむかって歩いています。
こうして、あちらからこちらからいろいろな要素が、柱になる冒険に縒り合されています。


スケール大きく、いろいろな要素をこれでもかってくらいに詰め込んで、見せどころもたくさんある物語ですが、少し散漫な感じもします。
むしろ・・・
御者仲間六千人という数字をあげているのですもの、
六千人の力が結集するような、なんていうのかしらね、「エーミールと探偵たち」の大人版みたいなのが読みたかったな、
なんて、最後までしっかり楽しんでおいて、わがままなことを言っています。