桜物語

桜物語

桜物語


大きな戦争が終わって、一人の元教師が、嘗て村の青年学校があった場所に立ちました。
残された桜の木は満開。戦争に送りだした教え子たちと記念写真を撮った思い出の桜の木。
教師は、戦死した教え子たちのことを苦い気持ちで思いだします。
でも、桜の花は、子どもたちの声になって、教師に親しく呼びかけるのでした。


教師の名まえは高岡正明。
「陽光」という品種の桜を作りだしたひとです。
教え子たちが亡くなった沖縄の海を見守るように咲くタイワンザクラに、
交配して日本の風土に合う桜をつくることに生涯をかけた人です。


南の島のタイワンザクラを日本に連れてくることは、まるで、教え子たちを故郷に連れ戻そうとすることのように感じました。
そして、その桜を日本の土地で育て、咲かせようとすることは、失われた命を形を変えてよみがえらせたいという願いのようでした。
毎年花を咲かせ、日本全国に広がっていくことは、彼らの子どもたちが、元気に育ち、栄えていくように感じました。


わたしは桜といったらソメイヨシノをすぐに思い浮かべる・・・というより、それしか名まえを知りませんでした。
だから、「陽光」という名前の桜があることも知りませんでした。
この絵本を紹介してくれたなぎさんのブログ「陽だまりの図書館」で、満開の「陽光」の写真に出会えます。
青空を背景にして、戦後に生きるわたしたちを温かく見守りつづけているようです。
私の住んでいる町でもどこかで晴々と「陽光」が咲いているのでしょうか。
タイワンザクラの海に眠る人々の子・孫・ひ孫の代のわたしたちを見守ってくれているにちがいない。
来る春ごとに花開き、続く命を喜んでくれているに違いない。