戦争と平和(二)

戦争と平和〈2〉 (岩波文庫)

戦争と平和〈2〉 (岩波文庫)


第二巻は、第一部第三篇、第二部第一篇・第二編、収録。
ここまで読み終えました。
感想と覚えがき。


登場人物の名まえと繋がりを覚えるだけで精いっぱいだった第一巻に比べて、二巻では、ひとりひとりの人物の彫りがぐっと深くなったように感じます。
それなりに性格がつかめてきた、というのではなくて、人は成長するし、経験や周りの人々の影響によって、考え方も生き方も変わってくるものだな、と思いました。


すっくりと伸びていく若木のような若い人たち
ロストフ家の居間で、かたまりあって、はしゃぎ、笑いあっていた少年少女たちは、それぞれに大人に近づいていきます。
それぞれに置かれた環境も違えば、それぞれの性格もちがう。それぞれの流儀で、未来を展望しています。
ことに身分の差が、こんなにも彼らの行く手に影響を与えていくことが、それは最初からわかっていたけれど、なんだかやっぱりせつないのです。
(ああ、ソーニャ。そして、言ってもしょうがないけど、誇り高きおぼっちゃまなニコライ〜)
ボリスとニコライの生き方の違いがくっきりと分かれてきたのがおもしろく、これから二人、どんな道を歩んでいくのでしょう。


この巻でニコライは、二つの時期に、アレクサンドル皇帝に会って(見て?)います。
一度目はアウステルリッツでナポレオンと戦う前後。皇帝を一途に慕うニコライの憧れは青くさいけれど、その若々しさが微笑ましい。
二度目は、この巻の最後。ナポレオンとアレクサンドル皇帝とが同盟のための会見(?)をする場を訪れたとき。ナポレオンに心酔する様子の皇帝の姿に、ニコライは、この戦争に死んでいった兵士たち、負傷した兵士たちのことを思いだし、複雑な思いを抱きます。
もともと持っていた純粋な皇帝に対する崇拝の気持ちがあっただけに、こうした場に巡り合わせた事が、ニコライの今後にどのような影響を与えるのだろうか、と思っています。
ニコライは、良くも悪くも、おぼっちゃま。
精いっぱい背伸びしたり、やたらプライドも高く、それが鼻につくときもあるのですが、若さゆえの潔癖さが微笑ましいです。
プライドが高いくせに意志の弱いところもあり、そのために決定的な失敗をやらかしたり・・・。
今後の成長が楽しみでもあります。


ロスコフ家の華やぎに比べて、静かに暮らすボルコンスキー家にも、いろいろと事件は起こり、その起こった出来事はどれも印象に残ります。
なかでもリーザがあんなことになるなんて・・・これまで彼女にほとんど好感情を抱くことなく来てしまったことが申し訳ないような気がしてきました。
マリアの婚約か?の顛末の悲喜劇も、結果、よかったよかった、と思ったのでした。


ピエールは変わらず。彼は自分の頭で考えない。
どこかからやってきたもっともらしい「アイディア」に安易にとびついて、一時的に身を寄せているだけのように思えてしまいます。
今回得た啓示(?)も、どうなんだろう。どこにも彼独自の努力の果てに到達した、という実感がわかないのですよね。
だから、極端から極端にすぐ流れてしまうような気がして危なくて信用ならない。
これから彼はどう変わっていくのか、それともずっとこのままなのか。気になります。
それにしても、このピエールと、どうしたって正反対にみえるアンドレイが親友同士というのも不思議な珍コンビだ。


この巻で一番印象に残ったのは、アウステルリッツの戦いのあのとき、アンドレイが見た青い空です。
果てしなく高く美しい空のした、人間たちの営みはなんてちまちましていることでしょう。