希望(ホープ)のいる町

希望(ホープ)のいる町希望(ホープ)のいる町
ジョーン・バウアー
中田香 訳
作品社


ホープという名の主人公、タイトルも『希望(ホープ)のいる町』。つまりこの本は希望の物語なのです。
ホープ(希望)というのは、16歳の高校生の名まえです。彼女が12歳の時、自分で選んで改名したのです。
引っ越しするたびに店は変わるけれど、14歳のときからウェイトレスのアルバイトを続けています。彼女のプロ意識、向上心は半端じゃない。
ウェイトレスといえば、アルバイト職種の代表選手みたいに感じて、わりととっつきやすいような気がしていたのですが、実は極めれば極めるほどに、その奥は深いのですね。プロのウェイトレスは、一朝一夕では生まれません。


ホープの育ての親のアディはコックで、その腕は超一流。
といっても、彼女の職場は、敷居の高い高級店ではありません。顔なじみの人たちが気軽にランチを楽しみながらおしゃべりに花を咲かせる庶民的なレストランなのです。
アディの料理の腕とこだわり、それに伴う当然の自信もプライドも清々しいです。料理がほんとにほんとにおいしそう〜。


ホープもアディも、自分の仕事を愛し、誇りを持って働いているかっこいい人。そして、こういう人の客になれたら幸せだなあ、と思わせてくれます。
私も自分の日々の生活のひとつひとつを丁寧にこなしながら、誇り高くいきいきと暮らしたいものだ。本から元気をもらいます。
素敵に頑張る大人でいたい。まだまだアディにもホープにも程遠いけど^^


一つの仕事でプロとして輝ける人は、他の仕事も精いっぱいに頑張るものです。
新しく暮らすことになった町の町長選の手伝いをすることになってしまったホープですが、16歳ながら(16歳ならではの)輝きを発揮し始めます。
彼らの対抗馬が、手段を選ばず立ちふさがりますが、ホープたちは負けません。


悪役たちは、あまりにベタで、悪役をやるために生まれてきたか、と思うような人物です。それを言うなら主人公の名まえ「ホープ」もストレートです。
この物語の悪役とは人生についてまわる苦しみや困難の象徴で、そういう苦しみが人の姿を借りて現れた、ということかもしれません。
打たれても打たれても、むしろ一番暗いときにこそ輝きわたる「ホープ」もまた、ほんとうに光のようです。
たとえ小さくてもその光は決して消えることはない。
主人公の名まえ、タイトル、どちらも、不安でいっぱいのこの世で、星のように輝き、私たちを照らします。


とはいっても、ホープは16歳の女の子なのです。しかも生まれ落ちた瞬間から目の前には山のような困難が待ち受けていたのです。
何度も何度も不安に囚われて身動きできなくなったのです。
何度も何度も打ちのめされそうになったのです。
でも、彼女は自分でホープという名前を選びました。その名にかけて顔をあげようとしました。


こう考えたらどうでしょう。
わたしたち一人ひとりの心のなかに、ホープもイーライ(敵)たちもいるのだと。
ホープの同僚(?)ブレイヴァマンが姿の見えない敵に打ちすえられたとき、彼が地方紙に投稿した文章に、こんな一節があります。
「・・・おまえたちの行為の裏側に、じつは『不安』があるのだ・・・」
ひどい困難に打ちすえられ、立ち上がるのさえ辛いと感じた時、心の中に灯された希望の光もまた強くなっている、ということかもしれません。あまりに光が強いので、暗い力が不安になって攻撃の手を広げてきているのかもしれないのです。だから、希望が困難を打ちすえる日は近いのだ、というしるしかもしれません。


最後の一文が素晴らしい。

>・・・長いあいだジャンクフードを食べつづけたあとで、ものすごくおいしい料理を食べたときの感じに似ている。そのおいしさは五感にしみわたり、心からの満足を得られる。その大きな幸せは、いままで食べたまずい料理の思い出をすべて帳消しにしてくれる。
そして、それはこれから先に食べるかもしれないまずい料理の味さえ帳消しにしてくれるにちがいない。そんな思いを読者に与えてくれたホープに感謝です。
さて、まずは、今夜。わたしもおいしいものを作ろうっと^^