ムーアに住む姉妹

ムーアに住む姉妹 (創元推理文庫)

ムーアに住む姉妹 (創元推理文庫)


シリーズ五弾目だそう。
この本の前の4冊を読んでいないので、物語に入っていけるかだろうか、と不安でしたが、まったく心配いりませんでした。
シリーズでは(多分)おなじみの人物も、物語の中の登場シーンごとに簡単に紹介して読者に引き合わせてくれるので、安心していられました。


ミステリです。
別にとりたてて騒ぐようなことじゃないんだけど、なんとなく違和感があるんだよね。
でもあまり些細なので、そう思ったことも忘れてしまう。
普通は、そのままなんでもなく続いていく日常。
だけど、そんな些細なことも度重なれば、気になって気になって仕方なくなるものです。
そして、あれこれの「些細」が全部つながっているかもしれない、となれば?
もしかしたら大きな事件がおこっているのかもしれないのです。


スリリングな場面があるわけではないし、衝撃的なシーンもないんだけど、やたら気になるあのこと、このこと。
いまどきガスも電気もないムーアのまんなかの屋敷。なのに豪華な家具調度。
だれもが心に秘密の一つや二つ、もっているだろうけど、ことさらに気になる口ぶりと雰囲気の姉妹。
つぎつぎに失踪(?)する家族。
ああ、何がどうして変なのかわからないけど気になる気になる。
一つ一つの事柄が些細だものだから気軽に首を突っ込んでいるうちに、どっぷりつかって、探偵してしまう。
まるで雪だるま式に膨れあがっていく借金のようなミステリでした。


この本のもう一つの魅力はコーンウォールという舞台です。風景の描写が素晴らしいです。
主人公の職業が画家ということから察して、ミステリであると同時に、この地方の魅力を存分にアピールする本でもあろうか、
と思います。
ことに海。「陰鬱な雨の日でも、海は灰色ではない。光線の加減でさまざまな色合いに変わる」というコーンウォールの海。
成功することは少ないのに(少ないからこそか)画家たちは次々にこの地を訪れ、この海の光と色を捉えようと苦心する、という。
そんな海をわたしも見てみたい、と憧れました。


そうそう、主人公たちの恋の行方にはやきもきさせられました。
この二人、5冊のシリーズ中、ずーっとこんな感じでやってきたんでしょうね。
そして、ずーっと読者をはらはらさせてきたんでしょうね。まったくもう^^