ささやき貝の秘密

ささやき貝の秘密 (岩波少年文庫 (2134))ささやき貝の秘密
ヒュー・ロフティング
山下明生 訳
岩波少年文庫


アグネスおばあさんにもらった不思議な「ささやき貝」
この貝は、それを手に持った人のことについてだれかが噂したときだけ、その耳にその話を聞かせるのです。
この貝をめぐって冒険の物語が始まります。


子ども部屋の存在。大人の領分と子どもの領分(時間も空間も)がぴしっと分けられていること。
そのおかげ(大人不在)で、子どもだけの冒険を始めることができることなど・・・
イギリスの少し古い子どもの本の独特の雰囲気が好きです。


魔法と冒険のお話です。最初から最後までわくわくして、とても楽しかった!
だけど、それだけではありません。


そもそもこの貝、ほしいか?^^
いろいろな人がこの貝を手にすることになるのですが、印象的なのは、哲学者ヨハンネスと、庭師ジプシーのジェリー。
哲学者ヨハンネスはこの貝と一晩過ごしたあと、こう言います。「真実からどんどん遠ざかる」「ばかばかしいおしゃべり」
ジプシーのジェリーは最初からこういいます。
「わたしはいそがしいんですよ、あなた。草地に寝っころがって、しだいに形をかえながら空を流れる雲を見るのに。だもんで、自分のうわさ話などきくひまはないんですよ」
うがった言葉に、なるほどなるほどとうなずいてしまいます。
噂話ほどあてにならないものはないし、聞いて気持ちよくなることもまずないのに、気にし始めると、とことん気になるのが噂話。
初めから聞かず、相手にしないでいれば、心安らかというものです。


貝の秘密を知って、この貝を欲しがった人もいれば、最初から「自分には不要」と相手にしなかった人もいました。
だけど、この貝を一番上手に使った人って、もしかしたらあの自惚れ屋の姫君では?
何が聞こえてきても(いや、よく聞こえないせいか)全部自分に都合のよい言葉に翻訳(?)してしまえる才能が素晴らしいです。


そして、魔法ってなんでしょう。
「きみ、魔法を信じるかい?」に対する庭師ジェフリーの答えはこうです。
「種から芽が出て花が咲く。これ以上の魔法がありますか?」


物語は終わり。あれこれの魔法は謎のままに残されました。でも、それでいいんだと思います。
この世の中は素敵な魔法と謎に満ち満ちているのだ、という気がします。
わたしたちのまわりにはたくさんの魔法があり、謎があり、冒険がある。
それを感じられる心で過ごしたいものです。ジェフリーみたいに。