比類なきジーヴス

比類なきジーヴス (ウッドハウス・コレクション)比類なきジーヴス (ウッドハウス・コレクション)
P・G・ウッドハウス
森村たまき 訳
国書刊行会


「ボートの三人男」といい、この本のバーティといい、
暇を持て余した若き英国紳士というのは、お気楽でお人よしな方たちなのだろうか、と疑いのまなざしで見てしまう。
バーティときたら・・・お人よしにして鷹揚。いかにも若旦那然とした憎めない男である。
が、そのために、どうも何かと頼り(?)にされてしまうのである。
幼馴染にして親友、ほれっぽいビンゴ。
やんちゃな双子の従兄弟クロードとユースタス。
泣きつく彼らの言い分はどれもこれも虫がいいことこのうえないのです。
なんのかんのといいながら、バーティの豊かな懐と、決して嫌といわない人の良さにつけこんでいるとしか思えない。
こんなトホホなお友達しかいないのだろうか。哀れ、バーティ。
しかも、泣きつくべき真の相手は、バーティの頭の向こうにいる執事ジーヴスなのであった。
(友人連中にとっては、バーティには取り次ぎと通訳(?)しか期待してないってこと。ますます哀れなり)
ジーヴスはバーティの執事であるととともに、
バーティに「うちに来た最初の日から、僕は彼のことを一種の先達者、哲学者、そして友人と見なしている」といわれるような男なのだ。


ジーヴスとバーティの会話はかなりおもしろい。
ジーヴスは慇懃にして控えめ、でありながら、主従関係を超えて、主導権がどちらにあるかは、火を見るよりも明らかである。


ジーヴスにまかせておけば何もかもうまくいく。
もしかしてこれは失敗か?と思うようなことも、
あとになってみれば、だれかさんにとっては「してやったり」の結果になっていたりするのである。
そのだれかさんというのがバーティでありジーヴス自身であり。
お約束のような逆転劇がなんとも平和に楽しいのです。
茶さじ一杯分ほどの皮肉も結構な味になる。
そして、「うまいなあ、やられたなあ」と思いつつ、憎めないのであった。


13章「説教大ハンデ」、出走馬ってあのねえ・・・いいのか? 
賭け事の話なのですが・・・うふふ、罰あたりたちめ。そして、この暇人どもめ。


11章「同志ビンゴ」での、バーティと老ビトルシャム氏に浴びせられた野次
「貧民を足蹴にしてきた典型的メンバー」「吸血鬼」「やつが生まれてこの方、誠実に働いた日があっただろうか」・・・
一方、特権階級に属するバーティに仕えているジーヴスは、
「奴隷根性」「旧弊な封建制度の遺物」と呼ばれるわけであります。
でも、ほんとかいね。こんな大音声の説教を振り回す単純さを嗤うかのようなジーヴスの行動である。
「旧弊な封建制度の遺物」のなかで自由自在に実にのびのびと泳ぎ回り、自分の才能をふるに活用し、たぶん楽しんでいる。
大物。黒幕。


紳士バーティと執事ジーヴスは最強コンビである。
最強なのはバーティじゃなくてジーヴスがだろ?とも言えないのです。
やはりバーティあってのジーヴスでしょ。
バーティがいなければ、ジーヴスはただの食えない男かも。
彼がこんなに愛すべき男でいられるのは、能天気バーティのおかげのような気がするのだけど。
お人よしの若旦那と食えない執事のコンビ・・・ね、やっぱり最強。