嘘つき娘

嘘つき娘嘘つき娘
マウゴジャタ・ムシェロヴィチ
田村和子 訳
未知谷


主人公アニェラは、ほんとに嘘つき娘なのでした。
アクの強い少女で、目的達成のためなら、貪欲に、強引に、突き進みます。
人の気持ちは考えないし、人を利用することも厭いません。おまけに強情。
読めば読むほど、こんな子とお付き合いするのはごめんだよ、と思うような思いあがった身勝手娘。
こんなに嫌な主人公も珍しい?
と、思うのですが、そして、あきれ果てる行動の数々なのですが、憎めないんだよね。なぜでしょう?


まずは、その強さ、一途さ。ここまでまっすぐでひたむきだと、あきれるのを通り越して、気持ちがいいのです。
自分の思い描く夢にたどりつくために、たいてい数々の試練があるのですが
(彼女の場合、分別ある大人からのストップがかかることが多い)
その障害をものともせずに突き進む姿には、おおっと快哉を叫びたくもなるのだ。
壁にぶつかったら乗り越える方法を、一生懸命考える。彼女は大変頭がいいのです。
そうくるか、という大嘘にぎょっとするのですが、そして、お人よしの大人は、するっと騙されてしまうのですが、どうしてどうして。
うまくいったはずなのに、嘘は嘘。
嘘のおかげで、すごくおもしろいシチュエイションに、のっぴきならない事態に陥っていく。さあ、どうします? どう解決する?
彼女、悪い子じゃないのです。彼女なりの良心があるのです。自分の播いた種は自分で刈り取るくらいのことはね。
だから憎めないのです。


アニェラの住む港町に避暑に来た青年パヴェウと、わずか一時間いっしょにいただけで恋に落ち、
彼を追いかけて、遠い大都会ポズナンへと旅立つアニェラ。その情報収集能力、行動力・・・おそるべき15歳。
ポズナンでは、パヴェウの近くにいたいからと、
探し出した(今までほとんど付き合いのない)親戚のコヴァリク家に、嘘を駆使してまんまと入り込んでしまいます。


アニェラのきわだった個性はもちろんですが、脇役たちがまた一筋縄ではいかない人間的魅力とバイタリティに溢れているのです。
アニェラの嘘を一発で見破った大家のリラおばさんはとっても素敵な人。
コヴァリク家の子どもたちトムチョとロムチャのとことんのク○ガキぶりとほろりとさせるかわいらしさに、
わたしは、くすくす、メロメロになっています。
子どもだと思って甘くみたら怪我します。アニェラを『嘘つき娘』と呼んだのはこの子たちなのだ。
そして、きわめつけは、聖ニクラウスの贈り物をめぐる二人の会話。も〜う、たまりませんでした。
あこがれのパヴェウも・・・これは予想の範囲内・・・なのですが、
パヴェウとアニェラが、どうやって出会うのか、ってところに、起伏に富んだ素晴らしいドラマが^^


個性の強い登場人物たち、思い切ったびっくりの展開にわくわく。
(無茶で身勝手なところもあるけど)自分の道を颯爽と切り開いていく気持ちのよさと、
若者の至らなさに半分目をつぶって見守ってくれる大人たちの温かいまなざしがいい。


ポーランド(1977年当時)の暮らしや習慣、経済など、初めて知ることが多く
(でも、たぶんにわかっていないところが多いのでしょうね)おもしろかった。
カッコ内の訳者註はありがたく、貴重でした。