10月の読書メーター
読んだ本の数:27冊
読んだページ数:6828ページ

葬儀の日 (河出文庫―BUNGEI Collection)葬儀の日 (河出文庫―BUNGEI Collection)
「私」と「彼女」という二つの「極地」。互いに求めつつ、その周りを回りつつ、合体させることができない、それはなんだったのだろう。なんだったにしても、自分というものに、ここまで深く真剣にむかい合った日がわたしにあっただろうか。うやむやに「いなくなった」ではなくて、おぼろげに「合体したのかなあ」ではなくて、こういう形で決着をつけなければならないほどの真剣さに、少し危ういような気持ち。そして畏れてもいます。19歳でなければ書けなかったかもしれないし、同時に19歳でこういう作品を書ける人は稀有でしょうねえ。
読了日:10月31日 著者:松浦 理英子
ぼくの名はチェット (名犬チェットと探偵バーニー1) (名犬チェットと探偵バーニー 1)ぼくの名はチェット (名犬チェットと探偵バーニー1) (名犬チェットと探偵バーニー 1)
確かに犬ってこんなふうに人間をみているのかもしれない、こんなことを考えているのかもしれない、と思う。くすくす。チェットの一人称語りがたまらない。人間と犬の考え方(?)や目的(?)が時にかなりずれているのに、互いのにくいばかりの友情・信頼。まさに黄金のコンビ。
読了日:10月30日 著者:スペンサー・クイン
たそかれ 不知の物語 (福音館創作童話シリーズ)たそかれ 不知の物語 (福音館創作童話シリーズ)
(再読)大切なことが、文章のなかで、何度も繰り返し繰り返し、少しずつ形を変えて現れてくるのが、美しい音楽のよう。
読了日:10月29日 著者:朽木 祥
かはたれ―散在ガ池の河童猫 (福音館創作童話シリーズ)かはたれ―散在ガ池の河童猫 (福音館創作童話シリーズ)
(再読)先週土曜日の満月を見ていたら、この本を読みたくなったのでした。美しいと感じたものを一つ一つ書き出していく場面ではやっぱり涙ぽろぽろ。こんなに美しい形で自信を取り戻して行くのがとてもいい・・・
読了日:10月27日 著者:朽木 祥
子どもたちに伝えたい戦争と平和の詩100子どもたちに伝えたい戦争と平和の詩100
戦争とはなんなのか、と多くの人たちがうたっていました。その答えはいろいろだけれど、共通するのは、強制されて「失う」ということだ、と思います。失うことや奪うことやを強制する大きな力からは、きっと詩は生まれない。この本のタイトルの「子どもたち」を、小さい無力な存在、という意味にとりました。無力なものにしか歌えない詩、聞こえない詩があるのだと思いました。
読了日:10月25日 著者:水内 喜久雄
黙祷の時間 (新潮クレスト・ブックス)黙祷の時間 (新潮クレスト・ブックス)
海に灰を播く場面は、まるで絵のように、静かで美しい。彼女の死をゆっくりと受け入れながら、やがて、すっかり大人になっていく彼。それまでの過程がきっと、彼女を悼むことなんだろう。と、同時に、少年期との別れになるのだろう。
読了日:10月22日 著者:ジークフリート・レンツ
11をさがして (文研じゅべにーる)11をさがして (文研じゅべにーる)
時間をかけてこつこつと大きな仕事をなしとげた子。ほとんどあきらめていた困難な道を切り開こうとする(きっとできる)決心は晴々とうれしかった。見守る大人たちの温かな存在感もよかったです。おっと、忘れてはいけない。相棒のキャロラインの変わり方(目立たないけど、徐々に心を外に向けて開いていく過程)も素敵でした。
読了日:10月21日 著者:パトリシア・ライリー ギフ
ピーティ (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)ピーティ (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)
ただ生きているだけに見える人生にはどんな意味があるのか。なんのために生きていくのか。その答えをさがすために生きていくのかもしれない。たとえ動けなくても、指一本動かすことさえできなくても、人の喜びになり、だれかのかけがえのない人になり、人を幸せにすることができるんだ・・・。爽やかな涙が気持ちいいです。
読了日:10月20日 著者:ベン マイケルセン
熊の敷石 (講談社文庫)熊の敷石 (講談社文庫)
痛みと共感が、とても微妙な関係の中にあることを知って、どきどきしました。痛みは「蠅」。微妙な関係は「投げる」こと。読了後、そこはかとない悲しみが残りました。だからどうなるものでもないし、どうしようとも思わない、その悲しみをそのまま持ち続けていくのだよ、と静かな言葉で、告げられたような気がします。
読了日:10月19日 著者:堀江 敏幸
海流のなかの島々 (下巻) (新潮文庫)海流のなかの島々 (下巻) (新潮文庫)
二部・三部。活劇場面や人の死さえ、どこかよそ事のように感じられて静か。第一部の少年とカジキの一騎打ちほどの臨場感はありません。現在生きてここにいる時間と、戻らない過去と、どちらがより現実的なのだろう。絶えず死を意識しながら生きるのは、それが果たすべき義務だからだろうか。この苦くやるせない物語の背景の自然描写は、あまりに美しくダイナミックでした。
読了日:10月18日 著者:ヘミングウェイ
海流のなかの島々 上 (新潮文庫 ヘ 2-8)海流のなかの島々 上 (新潮文庫 ヘ 2-8)
海と酒が似合う男たちの日々がとてもいい。本当に美しい。美しいけど甘くない。上巻(第一部)だけですっかり堪能しつくしてしまったような気がして、先を読みたくなくなっちゃいました。もうちょっと余韻に浸っていたい・・・といいながら、やっぱり続きを読んでいる
読了日:10月17日 著者:アーネスト・ヘミングウェイ
第八森の子どもたち (福音館文庫)第八森の子どもたち (福音館文庫)
戦争は悲惨なもの。そんななかで、ひとときの笑顔と思いやりを忘れないこと。太陽のぬくもりを喜び、緑の輝きを嬉しいと思うとき。だれかの悲しみ・痛みに寄り添い、誰かの喜びをともに笑いあえる人々がいる。そういう人たちの豊かさ、勇敢さに、言葉を失くしてしまう。「思い出のアンネ・フランク」でミープさんが語った「よきオランダ人」という言葉を思い出します。ああ、ここにもそういう人たちがいる。
読了日:10月15日 著者:エルス ペルフロム
好奇心の部屋デロール (たくさんのふしぎ傑作集)好奇心の部屋デロール (たくさんのふしぎ傑作集)
一歩中に入った瞬間、違う空間にまぎれこんだような感じ。剥製や標本の不思議な気配、あの曲がりくねった階段、ガラス戸棚や引き出しまで、揃って独特の空気を作っているようです。行ってみたい。そこにいるだけでいいから。最後に買ったのが虫めがねなのも素敵でした。レンズをのぞいたら、不思議な続き部屋があらわれそうです。
読了日:10月14日 著者:今森 光彦
マーティン・ドレスラーの夢 (白水Uブックス)マーティン・ドレスラーの夢 (白水Uブックス)
こまごました設計や調度について語るのを読む楽しさ。そこここに闇を宿した美しく精巧なまがいものたち。マーティンはミルハウザーの分身のように思いました。次々に世間を沸かせつつ、成功をものともせず、さらにその先を見通すマーティンの夢が現実を超えたとき・・・最終章のマーティンに圧倒されます。作家ミルハウザーの同じ道を歩むかもしれない覚悟もここにあるように感じました。
読了日:10月14日 著者:スティーヴン ミルハウザー
隣のアボリジニ 小さな町に暮らす先住民 (ちくま文庫)隣のアボリジニ 小さな町に暮らす先住民 (ちくま文庫)
守っているものも手放してしまったものも宙ぶらりんで、しかも、行ってくるほど違う価値観の文化・習慣の中で暮らしていく少数民族の困難さ、白人の側の戸惑いや苛立ちも伝わってくる。「獣の奏者」が、遠い異世界の物語なのに、血のかよった物語であるのは、書かれていることが、形を変えているとはいえ、「ほんとうのこと」だから、なのだ、と思ったのでした。
読了日:10月13日 著者:上橋 菜穂子
消えたヴァイオリン (SUPER!YA)消えたヴァイオリン (SUPER!YA)
時代の雰囲気、そして、なんといっても登場人物たちがいいのです。ロマの踊り子、なぞの楽団員、皇女の女官。勝気で行動的な主人公とその仲間たちのなんと魅力的なこと。怪しい連中はどこからどのように繋がっているのか。面白くって仕方がない。世間知らずだった主人公は、胸躍る冒険のうちに大きく成長します。自分の夢を追い、着実に足場を築いていく姿は見事だし、清々しいです。
読了日:10月11日 著者:スザンヌ・ダンラップ
晩秋―スペンサー・シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)晩秋―スペンサー・シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
「初秋」で、スペンサーという疑似父により自分の殻を打ち破ったポールが、今度は自分の力で自分の根っこを探し出そうとしている。晩秋は、初秋に比べて、静かで厳しいです。でも、この季節を静かに乗り切っていくことがほんとうの少年期との別れになるのでしょうね。「初秋」「晩秋」と読めてよかったです。他のスペンサーシリーズも読みたいな。
読了日:10月10日 著者:ロバート・B. パーカー
河童が覗いたニッポン (講談社文庫)河童が覗いたニッポン (講談社文庫)
刑務所、皇居、裁判傍聴、京都の地下鉄工事、・・・日本の中にあるのに独特の文化・慣習を持つ閉じられた世界。そうして脈々と守られたものもあったし、外部の憶測・偏見もあったろう。場所が場所だけに、これまで読んだ覗いたシリーズより硬い気がしました。河童が覗いたニッポンは、わたしの暮らす場所と陸続きでありながら、まるで外国のようでした。
読了日:10月09日 著者:妹尾 河童
ズンデヴィト岬へズンデヴィト岬へ
まるでシャワーをあびたあとのような清々しい小さな物語。素直で一途なティムの気持ちが丁寧に描かれていて、この子の思いをなんとかすくい上げてやりたいなあと思う。人々の善意がつながっていくのもいいものだ。あこがれにむかってただひたすらに進む、ということは、途中、どんな困難があったとしても、幸せな事なんだ、と思います。
読了日:10月09日 著者:ベンノー プルードラ
通話 (EXLIBRIS)通話 (EXLIBRIS)
「ここでおしまい? もうちょっと何かない?」というところで終わってしまう短編ばかりいっぱい読んだという印象です。どの主人公も、作者自身かな、と思う。ぱっとしない日々のなかにも、だれかに「このあとどうなる?」と思わせるような束の間がある。(だからといって、このあと、何かまぶしいことがあるはずもなくて、物憂いのでした)
読了日:10月08日 著者:ロベルト ボラーニョ
ハロウィーンの魔法 (チア・ブックス)ハロウィーンの魔法 (チア・ブックス)
村中総意の悪意を打開したのが、どこまでも子どもたち(しかも周りからは匙を投げられているような)の善意だけ、ということがなんとも小気味いいです。秋がどんどん深まり、ハロウィーンが近づいてくる様子も味わい深く心地よかった。丁寧に描写されるスコットランドハロウィーンの祝い方も珍しくて、興味深かったです。
読了日:10月07日 著者:ルーマ ゴッデン
河童が覗いたインド (講談社文庫)河童が覗いたインド (講談社文庫)
名跡の壮大さにも、その環境の広大さにも度肝を抜かれ、緻密な細密画にも感動しましたが、街のようす、人々の暮らしや交わりを描いた箇所が大好き。ことに気に入っているのは「田んぼの中の路線バスストップ」のスケッチでした。広々とした田園の真ん中のバス停には荒川良二の絵本を思いだし、トントンパットンと聞こえてきそうな気がしました。
読了日:10月06日 著者:妹尾 河童
そんな日の雨傘に (エクス・リブリス)そんな日の雨傘に (エクス・リブリス)
思いや妄想の破片まで全部言葉にしたようなこのとりとめのない文章の洪水に面食らいました。「綿ぼこり化」「沈黙時間表」「回想術研究所」・・・独特の造語や、落ち葉の部屋。それが、滑り落ちそうな世界にしがみつくための方便かもしれない、と思うとおかしいけど、悲しい。悲しいけど愛おしい。鬱陶しいはずの文章が、徐々に心地よくなっていく。不思議な本でした。
読了日:10月04日 著者:ヴィルヘルム ゲナツィーノ
戦下のレシピ―太平洋戦争下の食を知る (岩波アクティブ新書)戦下のレシピ―太平洋戦争下の食を知る (岩波アクティブ新書)
「食糧がなくなることが戦争なのだ」という言葉は強く響きました。実際飢えて死んでいく人もいる。生き抜くためには、草の根まで、土を払ってそのままかじるような日々に、それでも、食は文化である、との姿勢が残っていることに、驚きます。この文化は一面奇妙奇天烈ですが、お気楽なものではなくて、壮絶な戦いでした。
読了日:10月04日 著者:斎藤 美奈子
蝿の王 (新潮文庫)蝿の王 (新潮文庫)
美しく豊かなパラダイスのような島。でもこの豊かさのために、獣がふくれあがり、その飼い主(?)まで、本人が気がつかないうちに屠ってしまったとしたら・・・これはパラダイスというより大きな罠ではないか。そして、理屈ではなくて、多数の力に流されていくのが怖かった。
読了日:10月02日 著者:ウィリアム・ゴールディング,平井 正穂,William Golding
天の鹿―童話天の鹿―童話
さびしいけれど、これが自然の中の調和を取り戻す形なのかな、とも思います。だから、不思議な力強さも感じる。さびしく、暗く美しい物語なのに。暗い夜のなか、山谷をこえて、飛ぶように走る鹿の姿が印象に残ります。
読了日:10月01日 著者:安房 直子
河童が覗いたヨーロッパ (講談社文庫)河童が覗いたヨーロッパ (講談社文庫)
イラストはもちろん、文章の文字まですべて手書きで、手作り感がいいな。こんな旅の記録を描きながら旅をしてみたいなあ。いったい何か所のホテルに宿泊したのか、膨大な部屋の俯瞰図が楽しい。ヨーロッパと言っても、なんて広く、なんて多彩なんだろう。文化は生活。国や地方ごと、気候・風土によってちがう民家の窓、国際列車の車掌の制服の着こなし方など・・・興味は尽きません。
読了日:10月01日 著者:妹尾 河童

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