晩秋

晩秋―スペンサー・シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)晩秋(スペンサー・シリーズ)
ロバート・B・パーカー
菊池光 訳
ハヤカワ文庫


『初秋』から10年。
一人前の舞踏家となったポールが戻ってきました。母のパティが行方不明なのです。
15歳のときに、スペンサーに救われて、疑似父子のような関係になったポールでしたが、
家庭らしい家庭を持たずに大きくなった体験から、今一つ自分自身に自信が持てなかったのです。
結婚を考えている恋人もいるけれど、彼女のことを本当に愛しているのか、家庭をつくることができるのかどうか、
不安でもあったのです。
母を探すことは、自分自身をさがすことでもありました。


「初秋」で、スペンサーという外部の「父」の力によって、自分自身の殻を打ち破ったポールでしたが、
今度は、自分自身によって、自分の土台を固める物語―そのために母の存在を自分の中で容認しようとする物語とも思います。


そして、そのために、今、さまざまな父と子の関係が描かれます。
ポールとスペンサーの関係。スペンサーと(今は亡き)スペンサーの父との関係。
そして、ギャングのジョウと息子ジェリイの関係。
あれもこれもみんな父と子でした。
そして、それは外部から見てどれが正しくどれが間違っている、ということはできないような気がしました。
そして、それぞれの父と子の陰には、明確に書かれていない母の存在があるのでした。書かれていないだけに確かで寡黙で。


ポールはパティを見つけ出します。見つけ出したのでしょうか。見つけ出すことは、ある意味で決別することでした。
いつか、また母と子は会うかもしれません。でも、そのときは、今までとは別の関係で、ということです。


晩秋は、初秋に比べて、静かです。厳しいです。
でも、この季節を静かに乗り切っていくことがほんとうの少年期との別れになるのでしょう。