くろて団は名探偵

くろて団は名探偵 (岩波少年文庫)くろて団は名探偵
ハンス・ユルゲン・プレス
大社玲子 訳
岩波少年文庫


黒い手形がトレードマークのくろて団は五人組。正確に言えば、男の子三人、女の子一人、りす一匹です。
彼らが解決した事件四つ。
ふんだんな挿画は、二〜三ページおき。挿画というより、実は、この絵に意味があり、絵解きになっているのです。
小さなヒントや小さな謎解き(隠れた犯人の手掛かりや証拠物件の隠し場所など)を絵の中からひとつひとつ探しながら、
大きな解決にむかう、読者体験型のゲーム感覚のミステリになっているのです。


30年前に、訳者のフランクフルトに住む姪御さんが、おもしろい、と言っていた子どもの本。
ゆるやかで、子ども主体のミステリです。
犯人は、ピストルを持っていたり、車を持っていたりする大人ですが、知恵はそれほど回らない。
五人(四人と一匹)に、あっというまに追い詰められてしまいます。
子どもたち(と彼らを認める大人)の会話も、ゆったりとして、展開はゆっくり。
子どもたちが古き良き時代の、いい子たちなんです。
謎解き中心なので、この子たちが「くろて団」じゃないときの生活が見えてこないのですが、
だんごのように固まって駆け回っている彼らは、「エーミールと探偵たち」を彷彿とさせるものがある。


そして、なんといっても絵がいいのです。
丁寧に描きこまれた絵は、ほのぼのと温かい感じのイラストで、漫画チックなのですが、奥行きがあり、細部まで魅力的な街なのです。
古くてごちゃごちゃした素敵な建物、窓やドア、ポーチ、街かどの広告塔や石畳・・・
異国情緒たっぷりで、いいなあ、こんな街を子どもたちといしょに探検したいよ、と思ってしまう。
こんなふうにごっちゃり描きこまれた絵はそれだけで、わくわくする。


全部で60の絵があって、60の謎が仕込まれているのですが、幾つ解けたか、読者はチェックしていく。
最後に、解けた個数によって、探偵の才能がどのくらいあるか判定してくれるのです。
41〜60解けたら、いつかホームズ級の名探偵になれるそうですよ。
子どもの本、とあなどってはいけません。
結構難しいです。
ときどき、こたえを確認してもまだ、「???」と考えてしまうのもありましたよ。
わたしは名探偵は明らかに無理、いえいえ、並の探偵にもなれそうにありません。でも、とても楽しかった。