王への手紙(上下)

王への手紙 (上) (岩波少年文庫 574) 王への手紙 (下) (岩波少年文庫 575) 王への手紙 (上) (岩波少年文庫 574)
王への手紙 (下) (岩波少年文庫 575)
トンケ・ドラフト
西村由美 訳
岩波少年文庫


明日、ついに騎士に叙勲される。このときを夢みてがんばってきた年月。
夢がいよいよ叶う、その最後の試しの晩に、16歳のティウリは身を切られる思いで、その場を離れなければならなかった。
見知らぬ人から言付かったただならぬ手紙。
その手紙を託すべき相手に届けてすぐ戻ってくるなら、叙勲に間に合ったかもしれない。
ところが・・・思わぬ事件が起こり、ティウリは、遠く隣国の王のもとへ旅をしなければならなくなってしまいました。
それも内密で、自分の身分を明かすこともせず、たったひとりで。


出会い、道連れ、追ってくるもの。敵味方敵味方、それから友情。
次々に出くわす事件、そのたびに口をあける罠。命と使命の危険。どきどきしないではいられない。
ときどき、見開きの地図で現在地を確認すれば、ああ、まだこんなところにいるのか。道のりはなんてはてしないのだろう。
そして、その危険をくぐりぬけるたびに、必ず手に入れるのは、熱い友情。人々の信頼。
彼の身分も目的も明かすことができないのに、少年は、熱い友情と信頼を手に入れる。
それは、互いの言葉にならない誠意を感じあえるからです。
そもそも、ティウリ自身がこの困難な旅を引き受けたのもまた、見ず知らずの人からの頼み、
何の保障もないままに受けたのもまた、互いの誠意によるもの。
目に見えない信頼という、細くて、強い糸に結ばれながら、ティウリは先に進むのです。


古典的な騎士物語・冒険物語です。「ゆきてかえりし」物語です。
起こるだろうことはある程度予想されるのですが、それでもどきどきしないではいられません。
主人公のけなげさを応援しないではいられません。
冒険物語の楽しさを余すことなくちりばめて、それを少年のまっすぐな使命感がつないでいくのです。
遠い道を行く少年の健気な使命感にどきどき。
果てしない道、困難な冒険の行く手が、気が気じゃなくて、先へ先へ、心逸ります。
何も難しいことはありません。ただただ楽しんで(どきどきしながら)読者は、彼といっしょに一歩一歩歩いていけばいいのです。
わたしたちもまた、ティウリの旅の道連れでした。


うれしかったのは、「帰り」の物語があることです。
使命を果たしてハッピーエンド、ではなく、彼は、故国に帰ります。
今度こそ騎士になるために。(期を逃した彼はほんとうに騎士になれるのか?)
新たな使命を託されますが、「行き」の緊迫感に比べたらはるかにゆったりした使命です。
通った道を戻っていくわけですが、これまでに出会った彼の友達に次々に再会していくのです。
これがとっても楽しい。
苦しい使命を果たし終えての再会のすがすがしさ、また会おうの言葉。
意外なできごとなどにも遭遇しながら、すてきなカーテンコールのようでした。


どの登場人物たちも、それぞれに魅力的な人たちなのですが、
そのなかで、ひときわ輝いていたのが、ウナーヴェン王の道化ティリロ。
「騎士になるのに剣も盾も身につける必要はない」という言葉が印象的でした。