風車小屋だより

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風車小屋だより
アルフォンス・ドーデー
桜田佐 訳
岩波文庫


(再読)
フランス南部、プロヴァンス州の、アルルの町から八キロばかりの丘の上の風車小屋。
パリ在住のドーデーは、たびたび、この風車小屋に来て、美しい風物に囲まれて過ごしたそうです。
そして、この風車小屋で、たくさんの小品を書き、「風車小屋だより」として発表したのでした。


村のだれかれが語った話、羊飼いに聞いた話、
自分の過去の旅行や経験をもとにした物語、
素朴なもの、美しいもの、皮肉なもの、宗教色濃いもの・・・いろいろ。


なかでも好きなのは「コルニーユ親方」と「星」です。
「コルニーユ親方」は、この風車小屋の前の持ち主です。
近くに蒸気による粉ひき工場ができて、このあたりの風車小屋がばたばたと閉じられていくなかで、
一番最後まで風車をまわしつづけた頑固者のコルニーユ親方の秘密がせつない。
それを知った村人たちの気持ちが温かくて、素晴らしいです。風車小屋のあるこの丘の牧歌的な雰囲気も大好き。


それから「星」
ある羊飼いの山の上での一夜の物語ですが、なんという美しい夜だろう。
この大切な空気を震わせないように、息さえそっとそっと、と思ってしまいます。


そして、何よりも、これらの物語が書かれたのが風車小屋だというのがいいのです。
窓の向こうから聞こえるひつじも群れの鈴の音、
二階の間借り人はフクロウ、
ミストラルは絶えず、この風車小屋の回りを激しく吹き、空はどこまでも青い。
この特別な場所で書く、ということの喜びが、物語の隙間から立ち上ってくるようで、
どの話もどの話も、その向こうに透けて見える丘の上の風車小屋を意識しながら、ゆるゆると読んだのでした。