港町ヨコハマ 異人館の秘密

港町ヨコハマ 異人館の秘密港町ヨコハマ 異人館の秘密
山崎洋子
あすなろ書房


「この物語の舞台となっている明治三十八年は、関東大震災で大打撃を受ける前の、横浜がもっとも華やいだ時期です」
と作者のあとがきにありますが、この時代、この町の特有の空気を感じ、この時代の横浜の案内書のようにも感じました。
グランドホテルの、国の内外の客の華やぎ。活気。中華街の前身南京町の雑然とした路地。街路を走る人力車。
活気ある明るく華やかな表の顔といかがわしい裏の顔を持った町並み。
女性たちに広く道を開いた数々のミッションスクール。
なかでもフェリス和英女学校は、資産家の娘だけではなく、奨学金制度により広く庶民の娘たちにも門戸を開いていたこと、
その歴史から詳しく説明されていました。


主人公のりんは、フェリスに通う才媛です。
しかし、俥屋の一人娘として、家計を助けるために、人力車夫として働いているのです。
それから、グランドホテルのシェフを務める留伊(ルイ)
この二人が探偵役ですが、男勝りで怖いもの知らずのりんと、過去の陰をひきつつ落ち着いた大人の留伊のコンビはおもしろいです。
ふたりのでこぼこぶり(?)にはらはらしたり、クスッと笑ったり、
それから、恋愛になると、ふたりそろって、たちまちうぶになってしまうあたりもほほえましい。
なんとも魅力的なコンビですので、この本が、二人のシリーズものの中の一編というのだったら、楽しいなあ、と思ったのでした。
(というよりも、シリーズの中の一編だとしたら、この本の軽さも良しかな、という感じなのですが)


登場人物たちの過去やそれにまつわる心情など、わりとあっさりめだったので、今ひとつ気持ちを乗せていけなかったです。
主要な人たちがどういう人なのか、よくわからないのです。
人間のはずなのに、その人間が、物事のつじつまをあわせるための、パズルのピースみたいに感じて。
この本の主人公は、きっと明治38年のヨコハマという町だから。
多国籍でレトロで、ちょっと暗めの秘密を隠しながらも明るく元気な街だから。
あまり深く考えず、軽めに流して、ああおもしろかった、と本を閉じるのが正解かな。