ボートの三人男 (犬は勘定に入れません)

ボートの三人男 (中公文庫)ボートの三人男
ジェローム・K.ジェローム
丸谷 才一
中公文庫


イギリス紳士三人(と犬一匹)、休暇をテムズ川の上、ボートで過ごす。
井の中の蛙、というか、見通し大甘のうぬぼれ屋、働くことはきらいだけれど、口だけは達者。
誰もが自分だけはいっぱしのものだと思っている。
この三人の中でまともで、状況をちゃんと把握し、的確な指示(!)を出しているのは自分なのだ、
自分がいなければ、こいつらどうにもならん、
と思っているのがとってもおかしい。
こんな連中だもの、行く先々で次々起こる小さな困った事件や摩擦。
そこから思い出す過去のおかしな顛末。
そして、何か起こるたびに、自分だけがまともで、他の二人のせいでひどい目にあった、と思っていたりする、
それがとってもおかしい。


おかしいけど、絶対絶対、こんなメンバーといっしょに休暇を過ごしたくない! 川であろうがなかろうが! と思います。
だって、もし、こんな連中と行動をともにしたら、
状況判断できるのはきっと私だけだろうし、
ちゃんと動くのも私だけだろうからね。←おやおや、どこかで、というか頻繁に聞いたようなセリフだ。


のどかなテムズ川。ハタ迷惑な三人と、およそいらなそうな大荷物を乗せて、ボートは行く。
語り手「ぼく」の大真面目だけどとてもまともとは思えない文章に、
ふふふと笑いながらも、ときどき、「おっ」と思える文章がきらりまぎれこんでいたりするのがいいです。
「・・・なんと多くの人が、旅をするために必要だと考えて無用ながらくたをボートにつめこみ、みずからの身を危険にさらしていることだろうか」
なんて。(でも、そうはいいながら、本人が一番わかっていないのさ)


この三人、あとから思い出して言うに違いない。
大変な休暇だった。
それもこれも、わからんちんのあいつらのせいだ。
そして、なんとか無事に帰ってこられたのは、このメンバーの中に自分がいたからである、と。


でね、ほんとは、こんなゆったりした休暇、わたしもほしいなあ。
ボート(どんなボートでしょうね)一艘に、必要なもの一切がっさい乗せて日がな一日、水の上で過ごす。
おともにはもちろんこの本「ボートの三人男」を連れていくのだ。(こういうお気楽発言もどこかで聞いたような。)