靴を売るシンデレラ

靴を売るシンデレラ (SUPER!YA)靴を売るシンデレラ (SUPER!YA)
ジョーン・バウアー
灰島かり 訳
小学館


靴をテーマに探したら、どんな本があるだろか、と考えました。
『シンデレラ』『こびとの靴屋』などの昔話、それから・・・うーん、あんまり思いつかないのですが、ぱっと思い浮かんだのが、
オズの魔法使い』のドロシーの魔法の靴、『火の靴と風のサンダル』(ウルズラ ウェルフェル )、
『マルベリー・ボーイズ』(ドナ・ジョーナポリ)、そして、もちろんこの本『靴を売るシンデレラ』・・・
少ない本から思い浮かぶ「靴」物語のイメージ・・・
足にはく靴、侮るなかれ、靴は履く人の人となりを語り、運命のカギを握るのだ。おもしろい。
靴をテーマに本さがし、あとでもっと真剣に(?)やってみよう〜。


みてくれも学校の勉強もぱっとしないのに、
靴屋でアルバイトをして、靴を売ることに才能がある女の子が主人公だなんて、おもしろい。
わたしは、この主人公ジェナに、自分の靴を選んでもらいたい。
だって、きつい靴を履き続けたためにウオノメができちゃったお客さんに、「ウオノメができない靴をお探しいたしましょう。
これまでとはちがったデザインになるかもしれませんが、試してみてくださいね。
足をいじめない靴をお選びしますから」とアドバイスできる彼女、なんて頼もしいんだろう。
靴屋さんで、こんなふうに声をかけられたら、ほっとして、安心して、お任せしたくなるもの。


ジェナは、夏休み、バイト先のグラッドストン靴店の老社長マデライン・グッドストンに、何をどう見こまれたのか、
専属ドライバーとして、キャデラックに彼女を乗せて、
シカゴから、グラッドストン靴店の本店のあるテキサスまで(往路、あちこちの支店に立ち寄りながら)
六週間かけて往復するように命じられる。
この旅のあいだにいろいろなことがわかってくる。
社長の人となり、あちこちの店長たちの人となり、仕事の意味、靴を売るということの意味、
そして、実は、会社の乗っ取り計画が着々と進行している現実が。
社長や素晴らしい店長たちの教えは、思わず、はっとさせられることが多いのです。
そして、物語のあちこちで、発揮されるジェナの靴を売る才能。
(何が何でも買わせる、というのではありません。本当にその客の求めるものを求める形で提供する素晴らしい才能)


そして、老女とティーンエイジャーの旅。
世界を変えるのは老人と子どものペアではないか!とさえ思えるほどの最強コンビに、読んでいてパワーをもらいます。


終点の株主総会の場面ではすかーっとしました。気持ちいい!
しかし、ちょっと待て。
これは、単なる成功物語ではないのです。
ジェナは、実は、家庭の中にたくさんの問題を抱えて悩んでいたのでした。
どうあっても解決できない深い悩みから、一時的に逃げ出すことが、この旅の目的のひとつでもあったのです。
逃げる。
逃げても、問題は先送りされただけで、決して解決したわけではないのです。
そして、その問題は彼女自身に責任があるわけでもないのに、彼女につきまとうし、彼女の力で解決できるような問題でもありません。
それをもし、最後にすっぱすっぱとさばいて大団円に持ち込んだら、
一瞬すかっとはするかもしれませんが、それこそ嘘になってしまう。この物語の魅力は地に落ちる、というもの。
では、どうするか。
物語は、そして、この旅は、彼女に力を与えます。立ち向かう力。ぶつかる力。
希望を持って生きるために、今やらなければならないことをやってみる、という力。
そうして、わたしは気がつく。問題を解決することよりも、それに目を背けない勇気を持った時、人は大きくなれる。
大きくなった人にとって、解決不能な問題は、いつのまにか人生にのしかかる重荷というより、ちょいと軽くなっている。
そんな感じ。
そのほうが、御都合主義の解決よりずっといいのです。
彼女の人生に幸あれ、と祈ります。
いえ、祈らなくても大丈夫。
私なんかよりジェナのほうがずっと堂々としていて強くなっている。頼もしい。