パイレーツ―掠奪海域

パイレーツ―掠奪海域 (ハヤカワ・ノヴェルズ)パイレーツ―掠奪海域 (ハヤカワ・ノヴェルズ)
マイクル・クライトン
酒井昭伸 訳
早川書房


次から次へと見せ場はたくさん。テーマパークのような楽しさでした。
主人公チャールズ・ハンターは、カリブ海の私掠者です。
17世紀。イギリス宮廷に財をもたらすために外国(スペイン)籍の船を襲うことを黙認され、必要悪とされている者たちです。
支配下ジャマイカ島の無法地帯(いや、英国法は表向き、その地特有の裏のルールあり)ポート・ロイヤルのヒーローでもあります。
スペインと英国が表向きは友好国でありながら、裏でこういうことを公然とやっている、というのがすごい。
実際、歴史に残る私掠者の名もあるらしいのです。


お宝を積んだスペインのガレオン船を、船ごとふんだくってくるため、泣く子もだまる殺戮島(マタンセロス)要塞を襲うハンター。
そのための乗組員召集の場面からおもしろくておもしろくて。
だって、この乗員たち、ひとくせもふたくせもある個性派のつわものぞろい。
ある意味、ステレオタイプといえないこともないのですが・・・いいんです。
だって、彼らの持ち味のすべてが、物語中いかんなく発揮されて、大サービスの見せ場がたくさん仕込まれているんだもの。
第一、彼らを束ねるキャプテン・ハンターが実際かっこいいのです。
まったく派手な本だわ(笑)
次々訪れる危機。スペイン側との攻防、さらに嵐や謎の海域の冒険、怪物まで、次から次へ、息つく暇もなし、
これでもかってくらいにぎゅうぎゅう詰めこんで・・・楽しませてもらいました。


ピカレスク小説です。
主人公は法の目からこぼれおちた私掠者。
でも、彼らには彼らだけの厳然とした法があり、互いの信頼がある。
お行儀のよい地上の公感覚は捨てて、ハンターの法についていくことで保障される痛快さ。


作者マイクル・クライトンは、「ジュラシック・パーク」の原作者なのですね。
わたしには初めての作家です。
そして、クライトンは、2008年に喉頭癌のため、若すぎる死(享年66歳)を惜しまれながら急逝してしまったのだそうです。
ところが、後になってから、作家のパソコンから、ほぼ完成状態の未発表原稿がみつかったというのです。
それがこの本なのだそうです。
この本の存在自体がミステリアス。まるでハンターがさがすお宝を、作品の外で、読者が発見したような喜びではないか。
面白い本は、本の周辺にもまた物語をはらんでいました。

夏の厚さを退ける胸のすく冒険物語でした。ああ面白かった、と本を閉じる幸せ。