みどりのゆび

みどりのゆび (岩波少年文庫)みどりのゆび
モーリス・ドリュオン
安東 次男 訳
岩波少年文庫


「みどりのゆび」は初めて読みました。
植物を育てるのが上手な人のことを、この本にちなんて「みどりのゆびの持ち主」ということは知っているし・・・
植物を育て、花を咲かせる力が、戦争までもやめさせてしまう、というあらすじ(?)も、聞いたことはありました。
でも・・・


主人公チト(みどりのゆびの持ち主)のおとうさんは兵器商人なんです。
戦争はいけないことだ、といいながら、戦いあう両方の国に、兵器を売ることが仕事です。でも「いい人」です。
この世に生きる矛盾やごまかしなどが、やさしい言葉で、でもストレートに伝わってきます。
花を咲かせることで人々を幸福にし、戦争さえも辞めさせることができる。
それは、素晴らしいではないか。大ハッピーエンドではないか。
だけど、そうじゃなかった。
人の本音と建前がまるっきり逆のこともある。戦争反対、と言いながら、本心は逆のことを願っている場合がある。
そこから直接利益を受ける資産家たち。そういう資産家たちのもとで働く名もない庶民たち。
でも、みんな「いい人」なのです。
戦争がおこりそうだ、困った困った、と言っていた人々が、
起こらずにすんだことを必ずしも喜んでいないことは、どこの国のいつの時代にもあることだと思います。
戦争反対と声をあげ、たからかに平和を謳う人々や団体が、ほんとうに平和への道を歩こうとしているかどうか、謎です。


それにしても、植物が、人の心に及ぼす力はすごい。
ぐんぐん伸びていく植物たちの生きる力は素晴らしいし、そこからエネルギーをもらって元気になる。
親指をあてがった(?)だけで、その場に相応しい(あるはずの)種が芽を出して、どんどん育っていくイメージは美しいです。
必要な種は、必要とされる場所にちゃんと眠っているのかも知れません。
いつでも、機会さえあれば芽を出そうと思いながら。
刑務所、戦場・・・およそ花など似つかわしくない場所に花が咲き乱れる様の素晴らしさ。
大砲から飛び出したスミレの花束に吹き飛ばされてみたい。
しかも、みどりのゆびの持ち主は、ひときわ無垢な子どもです。まっさらな心のおさな子が、種たちの目をさまさせるのです。


物語のラストは・・・正直、わたしは複雑な気持ちで読み終えました。
親としては、やっぱりつらいのです。
たとえ、子が、栄光のうちに自分の使命を果たし、親には思いもつかない幸福のなかにいるはず、
とわかっていても、やっぱりつらいです。
そばにいて、その子の成長を見守っていたい。大人になっていくのを見ていたい。
普通の子でいい。そばにいてほしい。