ヘヴン・アイズ

ヘヴン・アイズヘヴン・アイズ
デイヴィッド・アーモンド
金原瑞人 訳
河出書房新社


闇の中を、黒い水をかきわけて、筏が進んでいく。
乗っているのは三人の子ども。エリンとジャニュアリ―とマウス。
彼らは、孤児院ホワイト・ゲートを脱走してきた「傷のある子ども」たち。
なんらかの理由で親と一緒に暮らせない子たちは、それだけで傷なんだという。
そう言うのは、この孤児院の院長(?)モーリーン。


モーリーンは、子どもたちを「傷のある子ども」と呼ぶことで、子どもたちのことをわかったような気になり、
そのために余計に子どもたちが見えなくなっています。
でも、本当は、このレッテル、子どもたちに貼ったのではなくて、自分自身に貼っているのかもしれません。
そして、自分に貼ったレッテルで自分をだまし、自分自身と向かい合うことを拒否しているように思います。
彼女の不幸。そう、不幸なのは子どもではなくて、自分自身なのです。


状況からいえば、望みなんかあるはずのない闇。
エリンたちがたどりついた場所は、ブラック・ミドゥンという油と泥にまみれた古い印刷所あと。
廃れた工場が立ち並ぶ地域です。
人気のないゴーストタウンのようなこの場所は、時間から取り残されたようです。
独特の空気が漂います。どろっとした空気の、濃い闇で、この世の続きというより、異世界なのです。
ここで出会った小さな女の子ヘヴンアイズと老人グランパ。
過去のないヘヴンアイズと、年をとって記憶がぼんやりしてしまっているグランパ。
この二人が、この世界では、あやしくも、美しいのです。この不思議な暗さと静けさの中で、不思議な輝きを持つのです。
とくにヘヴンアイズの澄んだ瞳。この子の放つ光は、淀んだ闇の中だからこそ、ひときわ明るい。


ホワイトゲート、ブラックミドゥン、という場所も、名前も、皮肉なものです。
清潔で温かい生活を保障されながらも、嫌悪感と怒りでいっぱいになりながら暮した場所がホワイトゲート。
喜びと愛情を見出した場所がブラックミドゥンだなんて。

自由を求め、広い世界に出ていきたい、と願ったエリンたちは、やがて、もとの世界にもどっていきます。
闇の中で輝くヘヴンアイズに出会ったからです。
エリンたちはたぶん気付いたのでしょう。光は、遠い世界に求めるものではなくて、自分の内にこそあるものだと。
その光が、彼女の周りの人たちをも照らし、変えていく。ヘヴンアイズの光がエリンたちを変えたように。

デイヴィッド・アーモンドの本は、これで四冊目ですが、どの本にも闇がありました。どの本にも狂気がありました。
でも、その闇と狂気の底から、無垢で美しいもの、明るいものがぼーっと立ちあがってくるのです。
いろいろな姿で、いろいろな方法で。その姿にいつも打たれます。
それは、暗闇の中の希望です。