鳥の物語

鳥の物語 (岩波文庫 緑 51-2)鳥の物語
中勘助
岩波文庫


雁、鳩、鶴、鷹・・・居並ぶ12種の鳥たちが、一羽ずつ、オゴタイ汗の前にまかり出る。
これは、鳥が語った物語。
中国、日本、インド、旧訳聖書の世界、七夕などの説話や故事など、個々の鳥の生態や習性に絡んだ物語などを題材にしています。
しかも、それぞれが、その鳥でなければきっと聞かせられない物語になっています。


珠玉の、という言葉がふさわしい物語。
鳥からみたら、人の大事は、少し滑稽にも思えてくるし、
苦しんだり、貪欲に生きたりするものたちまでもが、なぜか、愛おしくも感じます。
権力や名声にこだわって起こる悲喜劇は、ドラマチックだけれど、ばかばかしくなってきます。
親子の愛情の深さ、せつなさがうたわれた物語、理不尽なことに対する赦しの物語は、しみじみと沁みてもきますが、
その反面、人の業の深さも同時にとっくりと味わってしまう。
銀の匙』の繊細な美しさを思い浮かべて読んでいたので、鋭さに驚き、新鮮に感じました。


一番好きなのは、いかるの話。
いかる、四十雀、目白・・・と唄でしりとりでもするように、つないでいく唄が、好きです。
なんとなーく、あの響き(?)、土方 久功の絵本「ゆかいなさんぽ」を思い出します。

えのみ
かやのみ
はしばみ
くるみ
 ひえ ひえ

しいのみ
むくのみ
なんてん
こがき
 ひえ ひえ


ひがら
四十雀
山雀
こがら
 きび きび

いすか
いかるが
頬白
ほあか
 きび きび(以下略)

長い長い期間(三十年)に渡って少しずつ書き足し、書き足し、していった物語だそうです。作者が、この物語をどんなにか楽しみいつくしみながら書いただろう、と想像しています。