秘密の手紙―0から10

秘密の手紙―0から10秘密の手紙―0から10
シュジー・モルゲンステルン
河野万里子 訳
白水社


エルネストは10歳で、おばあちゃんとお手伝いのジェルメーヌ(こちらもおばあちゃん)と一緒に暮らしている。
その生活ときたら、驚くほどに静かで、判で押したように規則正しくて、
とても10歳のこどもの暮らしとは思えないのだけれど、
生まれたときからそんなふうだったから、当たり前に受け入れてきた。
友達もいないし、ほしいとも思わないし、生活のリズムを変えたいとも思わなかった。

>・・・感じるか、感じないか、それだけだ。そうしてもし感じるなら、それは奇跡にも似たことなのだ。
思い出すのは、つい先日読んだ「しずかな日々」です。
この子どもらしくない閉塞した日々を打ち破るのが、およそ主人公と正反対のタイプの友人、というのも似ています。
少し強引なくらいの友だちに引っ張られるようにして、
自分のまわりには広い世界があること、たくさんの人がいること、たくさんの生活があること、
などに気がつき、少しずつ世界を広げ、無着色だった生活が彩色されていきます。
生活に色がある、ということは笑うことができること、それから涙を流すことができること、でもあるのです。
何かをほしい、と思ったり、いやな思いをして困ったり腹を立てたり・・・
ひとつひとつがはじめてで、ひとつひとつに立ち止まって、その気持ちをかみしめる。
わたしたちは、なんて色彩豊かな世界で暮らしていたんだろう、と改めて周りを見回したくなるのです。
>・・・まず最初は、思うだけ。夢見るだけ、あれこれ想像するだけ。でも実現させるためには、まだ小指一本動かさない。ところがある日、さあ! 始動装置が動くのだ。すると人は、そこにむかって進みだす。
タイトルは「秘密の手紙」ですが、手紙って、素敵なアイテムだな、と思います。
人に近づく最初の一歩として。
目の前の相手が、次の言葉を待っているわけではない。
相手の顔を見ないで、でも相手のことを思いながら、ゆっくり考え考え、言葉を押し出すように書くことができるし、
書いた言葉を相手に届けるも届けないも、しばらく保留にしておくこともできるわけだし。
そして、返事が返ってくるまでの長いあいだ、相手のことをいろいろ考えている。