博物誌

博物誌 (新潮文庫)博物誌
ジュール・ルナール
ピエール・ボナール 挿画
岸田国士 訳
新潮文庫


影像(すがた)の猟人(かりうど)なのだといいます。

>彼はただしっかり眼をあけていさえすればいいのだ。その眼が網の代りになり、そいつにいろいろなものの影像(すがた)がひとりでに引っかかって来る。
そうして、彼が眼で捕まえる獲物たちときたら、
小道のわだちの上、
小川にきらめいて翻る魚の白い腹、
雄鶏雌鳥、牝牛に鵞鳥、蟻やノミ、
麦畑の上で歌うひばりに、
からっぽの鳥かご、
樹々の一家の物語。


好きなフレーズのほんの一部を書き抜いてみれば・・・
たとえば、釣竿の上にふいに止まったかわせみを「私は、翡翠に樹と間違えられた」
「二つ折りの恋文」は蝶のこと、
一晩中、月の名によって封印を貼り付けているのは蜘蛛である。
ノミは「ばね仕掛けのタバコの粉」で、
ろばは「大人になったうさぎ」という。


大体文章がたまらなく美しいのです。
ため息〜。
読んでいると、それだけで満たされてきます。
ほどよいユーモアとのんびりした田園風景。
ゆったりと流れる雲のした、そこにわれとともに住む生き物たちを写し取る。
この猟人の狩りはなんとやさしく、確かな腕前で、気が長いことか。


どこから読んでも平和で幸せな博物誌は、挿絵なんていらない。
・・・といいたいけど、待ってくださいね、ほら、ボナールの挿絵は、こんなににすてきで美しいのだから。