妖精物語 (遙かな国の深い森で)

妖精物語 遙かな国の深い森で (海外Dピース)妖精物語 遙かな国の深い森で (海外Dピース)
朽木祥 文
スザンナ・ロックハート 絵
講談社


深い森で、きこりの老人が、問わず語りに語って聞かせてくれる12の物語は、物語、というよりは詩のようでした。
「妖精の道」、「魔法の絵の具」、「妖精の輪」・・・
なんて美しいイメージ、なんて美しい言葉たち。
ああ、遠い国の森の匂いがします。
目を閉じたまま息を吸い込んだら、いつのまにか妖精の森に迷い込んでいるかもしれません。
「夢見るころ」は遥か昔に過ぎてしまった私ですが、たまには、思い切り夢の世界に浸ってみる。


金色の陽ざしの下のひときわ紅い林檎、家の床に残った何かを引きずったようなあと、森に並んで生えたきのこたち・・・
なんということもない光景、かもしれないけど。
ふと、「あれ?」と思った瞬間、どこかの物陰でだれかがため息ついて、くすっと笑っているかもしれない。
そうじゃない、と思うより、そんなことがあるにちがいない、と思ったほうが少しだけ幸福な気がするあれこれ。
ページを繰り、美しい絵の中の文章を読んでいくうちに、すっかり豊かな気持ちになってきました。


12の物語(詩)、どれも大好きですが、一番好きなのは、『海からの贈り物』
森の中で聞く海の物語は少し不思議な感じです。海の物語は、これだけだからかもしれません。

>その夕べ、誕生日の贈り物だといって、老人は流木を炉にくべてくれた。
流木をくべたら、こんな魔法が始まるのでしょうか。
本から、はみ出した海の匂い、どこか懐かしいような海の響きなどが、ここまで届いたような気がしました。


美しいスライド式の仕掛け絵本です。
英国在住のアーティストの絵に各国の作家がそれぞれテキストをつけ、
十カ国で一斉に刊行するというプロジェクトだったそうです。
絵が先にあって、そこから文章が生まれた、ということでしょうか・・・
ほかの国の文章も読めたらなあ、と思います。同じ絵から、どんな物語が紡がれたのだろう。


この絵本が消えてしまいそう。
せめて文章だけでも残すことはできないのでしょうか。あまりにも勿体無いです。



*『妖精物語』周辺(出会いのこと)(追記)*


「妖精物語 遥かな国の深い森で」( 朽木祥・文 スザンナ・ロックハート・絵)のことで、
もう一つ、この本をめぐる私のうれしいこと、聞いてもらえますか?


『妖精物語』の本が手に入りにくくなっている、と教えてもらい、びっくりして、慌てて探しましたが、
すでに、ネット書店はどこも「品切れ」「取り扱いできません」の表示になっていました。
近所の本屋さんに取り寄せをお願いしましたが、出版社さんにも、重版未定で一冊もないそうです。
図書館にもなくて、ショックでした。 なんでもっと早く入手しておかなかったんだろう!


半ばあきらめつつ、でもあきらめきれない思いで・・・
思い出したのは、ネットの友だちのブログで知った絵本専門店のお名前でした。
いつか行ってみたい、と思っていた憧れの書店さんに、ダメモトで、注文メールを出してみました。
はじめての注文です。


・・・やはりお店にはなくて、出版社にもない、とのお返事でした。
ところが。です。
なんと、手を尽くして、一冊、みつけてくださったのです!


もちろん、絵本が手に入ることは、踊りだしたいくらいうれしいことなのですが、
それ以上に、はじめての、しかも一面識もない者のメールでの突然の問い合わせに、
こんなにも熱心に手厚く対応してくださったたことが本当にありがたくて、嬉しいのです。


こうして、この絵本には、忘れられない、温かく嬉しい物語がついてきました。
この本はわたしの大切な宝物になります。
いつか行ってみたい憧れの本屋さん、と思っていました。
そして初めて買う本は、きっと思い出に残る本にしよう、と決めていたのですが。
思いがけないことから、こんな切羽詰った申し訳ない注文が初めての買い物になってしまった。
おかげで、わたしにとっては忘れられない出会いになりました。
書店さんのお名前を書いていいのかどうかわからないので、あえて伏せますが、
吉田音さんの小説『Bolero』『Think』の舞台になったあの森にほど近い素敵な本屋さんです。
ほんとうにほんとうにありがとうございました。
間接的に・・・ご自身のブログ内で、この本屋さんのことを書いてくださったかたがたにも、
幸せな出会いを、ありがとうございました。


いっぱいの感謝とともに。