シスタースパイダー

シスタースパイダーシスタースパイダー
エイドリアン・フォゲリン
西本かおる 訳
求龍堂


ぽっちゃり体型で走るのは遅いし、勉強も苦手なロックスが、
いきいき自分らしくなれるのは、土日に祖母のミミといっしょに店を出すノミの市。
ロックスは父も母も知りません。
ミミに聞いても歳の離れた従兄のジョン・マーチンに聞いても、「いつか話してやるよ」と言って教えてくれません。
話してくれないのは、事情があるはず。それでも自分の両親(ことにママ)のことを何も知らない、というのは辛いのです。
そんなロックスは屋根裏からママの日記帳を見つけ出します。13歳からロックスの誕生後までの日記。
ロックスは、毎日、少しずつ少しずつ読み始めます。少し嫌いになったり、同情したり、はらはらしたり・・・
若い日のママ・・・というよりまるで自分の同級生の誰かのようなヘレン(エリー)のこと。


主人公ロックスもいいけど、ロックスの家族や周りの人たちがすてきでした。
ノミの市の人たちの関係がとても素敵。
週一度ここで店を出す仲間というだけの関係。
どこでどんな暮らしをしているのかもほんとは知らない。
だけど、ここでは、この日だけは、みんなが家族。だれもが生き生きできる場所。こういう場所を持っていることは幸せなことだと思う。
だけど、これがすべてではないのだよ。


自分の親のことを何も知らないのはつらい、というロックスの気持ちはわかる。
だけど、知らせるにはあまりに辛い物語だ、というミミの気持ちもわかる。
でも、ママの日記を読みながら、まるで彼女の友人であるかのように、悩んだり苛立ったり、時には批判しながら、
そうして、自分自身を振り返って内省を深めていくロックス。
ルウェリン先生はロックスに「本当の話を書いてちょうだい。自分の心に正直に」と言った。
書くことで乗り越えられる気持ちがあるように、読むことで乗り越えられることもあるのだと思います。
最初のほうのロックスと、ママの日記を読んだ後のロックスは間違いなく違っていました。


ミミの言葉「鳥たちは同じ種類で集まって群れを作るもんだろ。あの子とあたしらは、ちがう鳥なのさ」という言葉に
わたしは、そうなのかもしれない、と思う。
ミミがことに苦い思いでそういうのもなるほど、と思う。
だけど、それでおしまいじゃないよね、と思う。それじゃ身も蓋もないじゃない。
そうジョン・マーチンも、ロックスも、そこを越えようとしている。
それがどんな結果になるかわからないけれど、彼らは、あの子よりもうちょっとだけ前に進むかもしれないのです。
それは偏見や先入観を捨て去る、ということでしょう。
決して仲良くなんかなれるはずがない、と思っていたロックスとジョエルが笑って「ハイ」と声をかけあうようになる。
それを妨げていたのは、お互いの(お互いの、だよね)偏見だったわけだから。
そして、以前読んだ『ジェミーと走る夏』に繋がる物語、と感じました。
あの本のグレースの言葉「いつか、なにもかもが変わる日がくるかもしれない」、そしてチョコレートミルクのゴールインに繋がる物語。
『ジェミーと走る夏』では、人種間の問題がとりあげられていましたが、偏見って、それだけじゃない。
もっと身近に、そして、意識にさえのぼらないところでたくさんありました。
それに気がついたら、ほんとうにいつか何もかも変わるときがくるかもしれない。
そのために、果敢に一歩を踏み出す若者たちがすがすがしいです。