メープルヒルの奇跡

メープルヒルの奇跡メープルヒルの奇跡
ヴァージニア・ソレンセン
山内絵里香 訳
ほるぷ出版


大きな戦争で捕虜になってしまったおとうさんは、やっと帰ってきたものの、疲れ果ててしまって、以前の快活さを失ってしまっていた。
それで、おかあさんのおばあちゃんが昔住んでいたメープルヒルに、移ることになりました。
メープルヒルでは『奇跡』が起こるからです。
最初はおとうさんだけずっとで、おかあさんと二人の子ども(マーリーとジョー)は週末だけ、のはずだったんだけど・・・


素晴らしい隣人たち。
美しい風景、喜びをもたらす労働。自然からの恵み。次々に素敵なことが起こるメープルヒルの日々が一年を通して描かれていきます。
メープルヒルでの暮らしのひとコマひとコマに、ため息をつき、ああ、なんて羨ましい暮らし!と声をあげたくなります。
こういう世界にいられる、というだけで、すでに一つの『奇跡』ではないか、と思うほど。
だけど、ほんとは、『良いこと』と『悪いこと』は裏表。そんなに良いことばかりが続くはずはないのです。
天国のように見えるメープルヒルですが、必ず嫌なこと、辛いことがあったはずなのです。
だけど、それを難なく忘れることができるほどに、この暮らしが素晴らしい、と思うのは、やっぱり、それぞれの気持ちかもしれません。
ここではきっと『奇跡』が起こる、と信じること。実際に何がおこったか、ということよりも、ずっと大切なことかもしれません。
それぞれにデコボコを持った家族ですが、
信頼と愛情に結ばれている、ということも、たくさんの奇跡を呼び起こす要因だった、と思います。


早春の雪の中で始まるメープルシロップ作り。
そして、物語の終わりに一年後のメープルシロップ作り。
物語全体から甘い匂いが立ち込めてくるよう、そして口の中いっぱいに一番シロップの甘い味が広がっていくような気がしていました。
たくさんの素晴らしい植物たち。
スカンクキャベツ! あの「エルマーのぼうけん」のスカンクキャベツですね。
たくさんのベリー。食べきれないほどのベリー。だけど絞ってインクにするベリーがあるなんて、初めて知りました。
ベリー・インクで書いた手紙、もらった友人はきっとすごく嬉しいだろう。


この本が日本で出版されたのは2005年3月。
でも、この本は1957年のニューベリー賞だったんですって!
それが、今、日本で読めるのはうれしい「奇跡」なのかもしれないのですが、でもでも・・・
こういう良い本が、50年も知られていなかったってことは、
世界じゅうに、まだまだ日本では知られていないすごく素敵な本がいっぱいあるかもしれない、ってことですよね。
そういう本を知らずに、ふけていく(!)のかと思うと悲しい。
いえいえ、国内に、掘り出したい宝物がまだまだたくさんあるに決まっているのだけど。