コブタのしたこと ミレイユ・ヘウス 野坂悦子 訳 あすなろ書房 |
最後の言葉でやっと息をつくことができた。
ずっとどきどきしていた。はらはらしていた。
先を読みたい、というよりも、このまま、これ以上進まないでほしい、と思った。
むしろ主人公を引き戻したかった、わたしの手元に。
主人公は、特殊学校の生徒でなくても良かったと思います。
主人公と同じ「弱さ」を持っている子は、たくさんいると思います。大人にもいると思う。
自分のなかにも、自分の身近な人たちのなかにもいると思う。だからどきどきしたのです。
リジーの気持ちの微妙なところまで、丁寧に丁寧に、書かれている。
手に取るように伝わってくるのです。
寂しさも、小さな喜びも、憧れも・・・そして、不安も心細さも。おびえも。
悩み、苦しみ、葛藤し、それでも、弱みにつけこまれて、悪に引き込まれてしまう理由がせつなかったです。
周囲の大人の迂闊さも思い知らされています。
主人公がこの苦い体験をもとに成長したことにはほっと一息つけるのですが、
成長と引き換えに、彼女自身にも、他の人にも、消えることのない傷が残りました。
取り返しのつかない傷が。読み終えてなお、心の奥にはずっと黒々としたものが残るのです。
純粋さは、決して悪いことではないのに、それが強みになることもあるはずなのに。
たくさんのリジーとコブタが、ほかにいるかもしれない。
コブタの非情さは、際立っているし・・・ああ、この子は救いようがないのだろうか。
こういう子はいるんだと思う。実際。
自分を守るためには彼女から離れるしかない。
二度と会うべきではない。
そう思いつつ、一方で、コブタがこうなった理由がそれとなく書かれていることを拾っていきます。
彼女も犠牲者だった。
ああいう状況で育ったのだったら、「大きくなった」というだけで奇跡かもしれない。
ひとりぼっちで、ほんとうは寂しかった。
他の子があたりまえのように受け取っている愛情や友情が、どんなに羨ましかっただろう。
だけど、自分が持っていないものをどうやったら受け取れるか、わからなかった・・・
この子は、悪意以外の感情に、きっと出会ったことがないのです。
だから、あんなやりかたしか思いつかなかった。
彼女のこれまでのことを思うとやりきれません。
彼女はまだ若い。
まだ子どもだ。
彼女が心から信頼できる大きな人に出会えればいいのに。
表紙と裏表紙の絵が好きです。
表紙の、金髪の少女が寄りかかって立っているのは物語に出てきたあそこです。
あの少女は電柱のしたに立って、広場を見ていましたっけ。
裏表紙にはだれもいません。
同じ場所だと思うのですが、無機質な電柱が、生きた樹木に変わっています。
やわらかな光を浴びてすっくりとたっている木に。
誰にも寄りかかられずに。