肩胛骨は翼のなごり

肩胛骨は翼のなごり (創元推理文庫)肩胛骨は翼のなごり (創元推理文庫)
デイヴィッド・アーモンド
山田順子 訳
創元推理文庫


ほこりまみれ、虫の死骸と蜘蛛の巣にまみれて、やせおとろえ、病気でころがっている謎の男。
臭い。
青ばえの死骸やねずみを丸ごと飲み込み、ペレットを吐き出す。
それなのに、彼には翼がある。鳥のような翼が。
おぞましさと美しさ、不気味さと神秘、不安と憧れ
美しいものと醜いものが混ざりあった幻想的な存在・・・
「彼って何者?」・・・名前はスケリグという。


マイケルの妹は、生まれたばかりの赤ちゃんで、重い病気です。
赤ちゃんにとりつく苦しみの黒い影。
マイケルの心臓のそばで鼓動を打ち続ける愛おしい存在。
マイケルの不安な気持ちと切ない祈りが混ざり合って結晶したような、マイケルの心を具現したようなスケリグの姿でした。
「不可思議な存在」


まるで夢のようだった。
忘れられない場面は、美しいと同時に怖ろしくもあるしおぞましくもあるのです。
なのに、やっぱり印象的で、そのまま受け入れて、忘れられない。


赤ちゃんの無事を祈る祈りは、小さなもの弱きものへの思いに結晶していきました。
混沌としているこの世。
いろいろな音や匂い、色の洪水は、ぐるぐるまわってにごった水のようにも見えます。
そのなかにきらきらと耀いてみえるのは、祈り
小さな命を囲む、家族や友人たちの思い、つながり・・・


スケリグの存在の不思議さからやがて、「不可思議な存在」は、この世のすべてのものこそなのだと知ります。
なんて美しい発見なのだろう。
わたしたちはなんという不思議に満ちた世界に生きているのだろう。朝も夜も驚異。
世界の声を聞こうと耳をすませば、世界もこちらに心を開いてくれる、そんな気がします。
スケリグと二人の子どもの交流はそう言っている。


マイケルと友だちになり、スケリグに共に力を貸すミナという少女がおもしろいのです。
マイケルのありきたりなものの見方を「典型的!」ときめつけ、耳をすますことを教えます。
ウィリアム・ブレイクの詩を教えます。ブラックバードやフクロウの雛の声を教えます。
彼女の囚われない価値観は、スピネッリの『スターガール』を思い出させます。
ミナが言います。
「・・・魂はしばらくのあいだ肉体からぬけだしてもどってくることができるんだって。そういうことが起こるのは、主として強い恐怖や激しい苦しみが原因だといってる。喜びが強すぎても起こることがあるんだって。世界があまりに美しくて、それに圧倒されて起こるってこともありうるんだよ」