百年の家

百年の家 (講談社の翻訳絵本)百年の家 (講談社の翻訳絵本)
J・パトリック・ルイス 作
ロベルト・インノチェンティ 絵
長田弘 訳
講談社


1900年のある日、子どもたちが「わたし」を見つけます。
すっかり廃屋になってしまった「わたし」を。


変わらない風景のなかで、「わたし」は、たくさんの人の暮らしを見守ってきた。
収穫を喜び、嵐には人々が身をよせあった。婚礼があり、死があった。
二つの大きな戦争があった。何度かの改築がなされた。
子どもが生まれ、やがて育ち、巣立っていった。
家は少しずつ手を加えられ、形を変えていった。人々の姿も生活も変わった。
そうして丁寧に住み込まれ、忘れ去られていく100年間――。


細かく丁寧に描かれた絵は、いつまでも見飽きません。家の歴史は絵と詩で力強く語られます。
力強いけれど、感情的になることは決してなく、押さえに押さえ、静かです。
静かで美しくて、うちに秘めたエネルギーを感じます(日本語訳が長田弘さん、というのも感謝です。)
家は、人々によって手を加えられるかぎり、みすぼらしくなることはないのです。
時代とともに、またそこに暮らす人々の生活を映して、家は姿かたちを変えていきます。
そうして長い年月を経て、静かな知恵を身につけているようにも見えます。
この家が建てられたのは、1656年でした。外観はすっかり変わってしまったけれど、
建ってから400年もたつ家がまだ大切に住まわれていることに驚きます。
それも公的機関に保護された文化財としてではなく、普通の人々が普通に暮らす家として。
家は、人々の暮らしをずっと見守ってきたのでした。


家の絵って、どうしてこんなに惹かれるのでしょう。
玄関を覗き込み、窓の内側をじっと眺めているうちに、
私が見ているのは家の間取りではなくて、人々の姿、生活だということに気がつきました。
これは家の歴史・・・いえ、家を描きつつ、主人公は人々です。
名もなき人々。
地道に働き、時代と自然に翻弄され、おびえ、地に身を打って泣き、ささやかな喜びを喜ぶ人々。
風に身をまかせながら、何度でも立ち上がり、生きていく逞しい人々の姿でした。